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風邪と看病 1

 二十時を過ぎた頃、三上が帰宅した。 「三上さん、お帰りなさい。今夜は豚のしょうが焼きですよ……みかみさん?!」  よろよろと力なくリビングへ入ってきた三上の顔は真赤で、そのままソファへ倒れこんだ。びっくりして走りより額に手を当ててみれば、異様な熱さに驚き喉から声が出る。 「すごい熱じゃないですか、いつからこんな? と、とりあえずベッドへ行きましょう」  三上の脇に身体を入れ込み、なんとか支えながらベッドへ誘導する。三上は半ば目を閉じかけながら、小さく呻いた。 「今朝から調子が悪いと思ってたけど、夕方から急にきた……病院行ったら風邪だと言われたから、大したことはない。寝れば治る」  スーツを脱がし、寝巻きに着替えさせた後、宮部は優しく三上の髪をなでた。 「明日が土曜日で良かった。冷やしタオル持って来ますね。薬を飲んで、ゆっくり休んでください。おかゆくらいは食べれそうですか?」  か細い声でいらないと言われ、じゃあお味噌汁だけでもと言えば、小さく頷いた。  保冷剤をタオルで包み、後頭部の下に置く。少量の味噌汁を飲んだ後にコップ一杯の水と薬を飲ませて再びベッドへ沈ませた後、冷やしタオルを額に乗せた。  苦しそうに目を瞑る恋人の姿に、胸が痛む。  ゴールデンウィークが明けて、営業部の新人が退職代行サービスを使って突如退職したと聞いた事を思い出す。代行を使って辞める若者のニュースをみたことはあるけれど、職場で聞いたのは初めてだった。  営業係長の三上は責任を感じていたのかもしれない。ここ数日、営業部内の士気を高める為にも人一倍働いていたようだ。 「三上さん、三上さんは仕事の出来る人だってわかってます、でも……でも、頑張り過ぎないでくださいね……」  三上が体調を崩した原因は、共に暮らし食事を管理している自分にも責任がある。どうして今朝にも気付かなかったんだろう。心の中で己の不甲斐無さを叱咤する。  掛け布団の上から三上の身体に寄り添うように顔を埋めると、優しく髪をなでられた。 「あまり近付くな……風邪が移る」  顔を上げると自分を見つめる三上と目が合い、宮部は更に胸が痛くなった。三上が病院から処方された薬を掴み、水で喉へと流し込む。

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