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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 1

 それは二人で食卓を囲んでいる時だった。  三上さんのグラスにビールを注ぎ、自分のグラスには麦茶を注ぐ。  お疲れ様でしたと軽くグラスを合わせて、冷たい麦茶を一口飲みながら正面に座る三上さんを見つめた。  風呂上りで少し頬を紅くしている三上さんは、会社で見かける三上さんとは違う。オフモードの彼を間近で見つめていられる幸せに、まだまだ慣れない。  ビールを一気に飲み干して美味しそうに息を吐く三上さんと目が合ってしまい、慌てて目線を食卓へ戻した。夕食のメインは豚のしょうが焼き。生姜が好きな三上さんの口に合うように、生姜を多めにしてみたけれど、気に入って貰えるだろうか。 「美味い」  顔をあげると、目の前の人は生姜焼きを頬張りながら目尻を下げて微笑んだ。よかった。次回作るときも生姜は多めにしよう。  空になった三上さんのグラスに再びビールを注いだあと、「宮部」と名前を呼ばれた。 「誕生日、何が欲しい?」 「えっ?」 「もうすぐだろ、七月十六日」  誕生日。そういえば三上さんの誕生日をお祝いした時に、自分の誕生日を聞かれて答えた事を思い出す。けれど数ヶ月も前の事だし、覚えていてくれてるなんて思わなかった。 「なんでそんなに驚いた顔をしてるんだ?」 「……いや、あの、……覚えていてくれてると思わなかったので……」  宮部が言葉を返すと、今度は三上が驚いた表情で宮部を見つめた。 「お前、俺をそんな鳥頭だと思ってたのか」 「えっ!? いや、そうじゃなくて!」  慌てて訂正すると、クスリと笑われた。 「なないろの日って、覚えやすいしな」  なないろの日。 (語呂の良い日に生まれて良かった……!)  それにしても、「欲しいもの」と言われても。  少し考えてみたけれど、何も思い浮かばない。 「僕、昔から物欲がないというか……以前も少しお話したかもしれませんけど、所有物の少ない生活をしてきてるので、欲しいものと言われても特に……」  もごもごと口にしながら、段々と恥ずかしくなってきた。欲しいものひとつも思い浮かばないなんて、つまらない人間だと思われるかな。

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