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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 3

 しょぼんと頭をさげたのもつかの間、三上さんの左手に右手をがっちりと握られて、行くぞという声とともに三上さんは再び僕の前を歩き始めた。  ていうか、手、て……。こ、こんな公衆の面前で。恋人繋ぎみたいな事になってますが! 「み、三上さん、あの、手……」 「始めからこうすれば良かった。また見失ったら電車に乗り遅れるぞ」 「は、はい、すみません」  先を歩く三上さんの背中のおかげで、人混みに揉まれる心配がない。だから前を歩いてくれているのかと、やっと気付いた。  冷静に考えたら、これってどうみても親に手を繋がれる子供か、飼い主にリードを引かれる犬のような図に違いない。この世界の誰も、三上さんと僕がこ、こ、恋人同士だなんて、気付く人はいないだろうな。  そんな事をぼやぼやと考えているうちに、気付けばお弁当屋さんの前に立っていた。 (お弁当……!) 「ぼけっとしてどうした、弁当楽しみにしてたんだろ。どれにする」 「は、はい! すごい、いっぱいある……!」  色とりどりの駅弁達を前に悩んでいると、隣の三上さんに笑われた。三上さんは既に鶏めし弁当を手にしている。 「駅弁でそんなに盛り上がれるなんて、面白い奴だな」  言われて恥ずかしくなったけれど、ワクワクする気持ちは止まらない。悩みに悩んで、五目わっぱ飯を手に取った。  新宿から箱根湯本温泉までは、ロマンスカーで七十五分。  三上さんと二人きりで、電車の旅。嬉しすぎてスキップしたくなる気持ちを必至に堪えつつ、ロマンスカーに乗り込んだ。 「宮部は窓側に行け」  言われるがままに窓側の席に座り、トレーを引き出したりしているうちに、列車が動き出した。 「わ、動き出しましたよ三上さん」  興奮気味に振り返ると、三上さんはプシュリと音を立てて缶ビールをあけていた。早速のランチビールですか。僕の視線に気付いたのか、旅だからなと口角を引き上げる。  先程購入した駅弁を広げ、わあと声を上げれば、また笑われた。

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