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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 6
「ああ、昨日言ってた場所か。時間的にここは明日だな。それにしても真っ先にここに行きたいってお前……なんていうか、お前らしいといえばお前らしいのか……」
ぶぶぶとおかしな笑い方をする三上さんは珍しい。ツボに入ってしまったようだ。
「え、だってお金洗ったら金運アップですよ? 絶対行かなきゃ、深沢銭洗弁天」
なにはともあれお金は大事だ。神頼みできるならしておきたい。
三上さんは、わかったわかったと言いながらまだ笑いを堪えている。それにしてもお前らしいって、どういう意味だろうか。
「とりあえず下に降りて、商店街を歩いてみたらいいんじゃないか。昨日見てたアレ、お前の好きな甘いものも売ってるだろうし」
「温泉まんじゅう! カステラ焼き箱根まんじゅうも気になってたんです、早く行きましょう」
甘いものと聞いて一気にテンションが上がり、リュックを背負いなおして三上さんの隣に並んだ。
商店街は観光客で賑わい、活気に溢れている。その空気に当てられて、ワクワクしながら道を歩いた。
「温泉街って僕初めて来たんですけど、賑やかなんですねぇ」
「ここは賑やかな方だけど、全国的には静かで寂れた温泉街の方が多いかもな」
そうなのか。寂れた温泉街というのもどんなものか気になる。
長野で暮らしていた頃に温泉めぐりなどしてみたら楽しかったのかもしれないけど、あの頃はそういうことを考える余裕はなかった。足の悪いおばあちゃんを置いて旅行なんて、考えもしなかった。
「宮部」
ほら、と温泉まんじゅうを手渡される。作りたてのほやほやだ。店の脇に寄り、一口齧ると甘い味が口の中に広がった。
「甘さ控えめのこしあんですね、ぎゅっと入ってて、すごく美味しい」
甘いものにさほど興味のない三上さんも僕に付き合ってくれたようだ。手にした饅頭を一口、二口で食べ終えてしまった。口をもぐもぐさせながら、シンプルな味で良いなと感想をもらしている。
「三上さん、ひとくちが大きいですね」
「この饅頭が小さいだけだろう」
ペットボトルの水をごくごくと飲み干す三上さんの喉元を眺めながら、僕は三上さんが買ってくれた温泉まんじゅうをゆっくりと味わった。
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