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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 7

◇◇◇ シャトルバスに乗り、五分ほど揺られて宿に到着した。のだけれど。 「……!!!!」  宿泊の手配は全部三上さんがしてくれて、宿名もシャトルバスが来るまで教えて貰えなかったのだけれど、宿の全景を目にするなり圧倒された。  和モダンというのだろうか。閑静な佇まいの立派なホテルで、辺りは木々に囲まれてとても静かだ。  もしかして、もしかしなくても、とても高級なお宿なのでは……。  ハーフパンツにスニーカーにリュックという身なりの自分が恥ずかしくなり、恐る恐る隣の三上さんを見上げると、涼しげな表情で行くぞと声をかけられた。念のためシャトルバスに同席していた他の方の服装に目を向けてみれば、リュックにスニーカーという人を見つけて、ほっと息をつく。大丈夫、きっとセーフだ。 「何をぶつぶつ言ってるんだ。チェックインするぞ」 「は、はい」  広いロビーのソファに腰掛け、冷茶を頂きながら隣で仲居さんの案内を聞く三上さんを覗き見てから、すぐに下を向いた。夕食と朝食の時間の案内やチェックアウトの時間など説明を受けているけれど、僕は気後れが先立って、黙ってお茶を飲む事に専念していた。 「宮部、夕食の時間は」  急に話題を振られ、はいっと答えると、三上さんに夕食の時間はどっちが良いのかと聞かれた。どうしよう、全然聞いてなかった。 「えっと……」  三十代前半だろうか、綺麗な仲居さんが笑顔で「十八時からと、十九時からをお選びいただけます」と説明してくれた。  ちらりと三上さんを見上げると、 「お前の好きな方でいい」  と判断を委ねられた。って、僕こういうの初めてなので! 委ねられても困ります……!  泡ついている事を察してくれたのか、仲居さんが助け舟を出してくれた。 「夕暮れの露天風呂では、川のせせらぎに加えてひぐらしの鳴き声も聞こえてきますので、ゆったりとした時間をお過ごしになれるかと思います。十七時から十八時頃がお勧めの時間帯です。もしよろしければ」  露天風呂という最重要アイテムを引き合いに出されて、胸が高鳴った。夕暮れの露天風呂、入りたい。

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