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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 9
「お前が可愛い事ばかり言うからだ」
可愛い事。ハテと考え、銭洗弁天のくだりかな……?と思いついたけれど、口にするのはやめておいた。
そんなことよりも、三上さんに見つめられている今が幸せすぎて、もうこのまま時間が止まってくれたらいいとさえ思った。
「夕食まで四時間ほどあるし、あとは部屋でゆっくりしよう。露天風呂に入るか」
そうですね、といいかけて、ハッと気付く。
「あの……仲居さん、僕達を見て、どう思った、んでしょうね……」
「仲の良い恋人同士だと思ったんじゃないか?」
「そ、そうですね、仲の……や、やっぱりそうですかね……?」
客室露天風呂付の豪華な部屋に男二人で宿泊なんて、そうですと言っているようなものですね?
赤くなったり青くなったりと忙しない僕を見て、三上さんはかまわないだろうといいながら両腕で僕の身体を引き寄せた。
三上さんの体温と心音を感じて、ゆっくりと安心感が広がっていく。両腕を三上さんの背中へ回し、そっと抱きしめた。
静かな部屋に、川のせせらぎが聞こえる。喧騒など聞こえない、極上の空間に二人きり。
(こんな幸せな誕生日、僕がもらってもいいのかな……)
そんな事を考えていると、ふいに三上さんが口を開いた。
「今日は宮部の誕生日だけど、ひとつ俺からお願いをしたい事がある」
「えっはい、なんなりとどうぞ」
胸に埋めていた顔を上げると、三上さんの双眸に捕まった。お願い、だなんて。出来る事ならなんでもしたい。
「そろそろ、名前で呼んでくれないか」
「……へっ」
「いつまでも三上さんと宮部じゃ、職場の延長みたいだろう」
「え、えっ……と、そ、そんなことは……」
「ある」
断言されて、ぐっと言葉に詰まる。三上さんがまさか、そんな事を考えていたなんて。
いやでも、今突然言われても。三上さんを名前呼びだなんて、恐れ多くてとても……!
「名前で呼んで」
「な、なまえですか……」
「まさか、知らないって事はないよな」
「……」
「泰生」
「し、知ってます」
「じゃ早く」
いつまでも後に続けない僕に業を煮やしたのか、噛み付くようなキスをされた。唇の隙間から入り込んだ舌先に歯列をなぞられ、上顎をなぞられ、全身に痺れが走る。
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