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身悶えるほどに甘やかしたい<後編> 2

◇◇◇  当日は晴天で、幸先の良いスタートを切った。しかも宮部にとって旅行自体が人生初だと知り、正直少し驚いた。ならば益々楽しい旅にしてやりたい。  前日は緊張して寝付けなかったのか、行きの列車では弁当を食べ終わるなりスヤスヤと眠ってしまったから、到着直前に起こしてやった。宿に着いて少ししたらまた寝落ちてしまったので、普段の疲れも相当溜まっていたのだろう。静かな宿を選んで正解だった。  ベッドの上掛けの上に横になったまま眠ってしまったので、起こさないように身体をずらして上掛けをかけ直す。スコスコと静かな寝息をたてる宮部を見つめているだけで、幸せな気持ちになる。抱きしめたい衝動に駆られたけれど、起こしてしまってはいけない。艶やかな黒髪を梳くように撫で、額にそっと口付けた。  休日だというのに容赦なく送りつけられるメール達を一通り捌ききり、宮部の傍へ戻ってみたけれど、まだ起きる気配はない。  堪らず赤い唇にキスをすると、もぐもぐと口を動かした。さながら小動物だ。  宮部の隣に腰を下ろし、ヘッドボードに寄り掛かる。宮部の黒髪を撫でながら、読みかけの文庫を開いた。 「……う……ん……」  隣から声がしたので、起きたのかと覗き込んだが、スゥと寝息が戻った。寝言のようだ。けれど眉間にシワが寄っている。気になり様子を眺めていると、再び「うう……ん……」と寝言を始めた。 (怖い夢でも見ているのか)  ゴロンと寝返りを打った宮部が左隣の三上側へ身体を向けると、左手指先がわずかに動いた。何かを握りしめようとするような指先の動きを不思議に思い、右手でそっと宮部の指先を撫でてみる。すると、指先が触れ合って直ぐに、三上の指先を手繰り寄せるように絡めてきた。眉間にはシワを寄せたままだ。  その様子が可笑しくて、三上は口元を緩ませた。どんな夢を見ているんだろう。  三上は絡められた指先をそっと握り返し、宮部の額に唇を寄せた。

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