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身悶えるほどに甘やかしたい<後編> 4

◇◇◇  食事を終えて部屋に戻った頃には、二十一時を回っていた。 「ああーお腹いっぱい……もう何も食べられない」  ソファに座り腹に手を当てる宮部を見下ろすと、ポコンと膨れた腹が見えた。狸の置物みたいだなと言えば驚愕の表情を浮かべるものだから、三上は声をあげて笑った。 「明日のスケジュールをたてておかないと」  言いながらガイドブックを開く宮部を横目に、三上は自分のバッグを開いた。 「明日は登山鉄道で移動して……紫陽花観れるかなあ」  真剣な表情でぶつぶつと呟いている宮部の右隣に座り、名前を呼ぶ。 「結音、右手を開いて」 「えっ、はい」  素直に右手のひらを上向きに開いたその上に、リボンが掛かった箱をちょんと置いた。 「…え、えっ!」 「おまけのプレゼント。開けてみろ」  宮部は両眼をまん丸に開き、箱と三上の顔を行ったり来たり見つめた後、頂いて良いのでしょうかと遠慮がちに問いかけた。 「お前の為に選んだんだ。早く開けろ」  三上に急かせれ、震える指先でゆっくりとリボンを解く。箱を開けて、宮部は小さく声を上げた。 「こ、これ……」 「いつだったか、俺のを貸したら書き心地が良いって感動していただろう」  ボディはサテン調の光沢のあるブルー。矢をモチーフにした模様が施されたクリップとペン先はシルバー色で、上品な輝きを放つボールペンだ。  以前、宮部にボールペンを借した時に、流れるように書けると驚かれた事があった。そんな小さな出来事を、三上は覚えていた。 「色違いで俺とお揃いな。無くさないように、名入れもしておいたぞ、ほら」  ローマ字で「Y.Miyabe」と掘り込まれた文字を指差し、耳元で囁く。 「お前の数少ない所有物の中に加えてくれ」  宮部は目も顔も真っ赤にして、震えながら三上の顔を見つめた。眉間にしわを寄せ、今にも泣き出しそうだ。喜んでるのか、困っているのか、よくわからない。要らない物だったかと喉まで出かけた時、宮部がか細い声を絞り出した。 「ありがとうございます……」  途端にぼたぼたと涙が流れ落ちた。

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