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身悶えるほどに甘やかしたい<後編> 10

「この先転勤もあるかもしれないし、お前の方も何があるかわからないしな。生活拠点を固定すれば、何があってもお互い戻る場所はひとつになる。あとはまあ、年齢もあるな。いまがちょうど頃合いだ。マンションを購入しようと思う」  宮部は大きな瞳をぱちぱちと瞬きして、マンション、と呟いた。 「大きな買い物ですね」 「そうだな、だからお前に確認している」  三上はほんの少し緊張しながら、宮部を正面から見つめた。 「お前と俺の、新しい家を探す。異論はあるか」  拒否されるとは思っていない。されたとしても選択肢を与えるつもりはない。けれど、もしも……。 「……ありません」  宮部の顔が赤いかどうかは、薄暗がりの中ではわからない。けれども真っ直ぐな瞳で自分を見つめ返した事ははっきりとわかった。 「泰生さんが望んでくれるなら、僕はあなたについていきます……」  最後は聞き取れない程の小声になり、俯いてしまった。無理矢理言わせてしまったのかと不安になり、両手で宮部の頬を包みこみ、顔を引き上げる。  宮部の顔を覗き込み、それからふわりと頬が緩んだ。ああ、自分はまた緩んだ顔をしているに違いない。でもそれももう、どうでもいい。 「お前は今日一日で、何度泣くんだ……」  月明かりの下で、三上は宮部の柔らかな唇にそっと唇を寄せた。 <おわり>

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