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三上さんの前世について考えた日 1
三上さんが、かっこよすぎる。
三上さんが素敵なのはいつものことなのだけれども、今日の三上さんは本当にかっこよくて、僕の心臓はさっきからギュウギュウと締め付けられっぱなしだ。
先週末に三上さんの見立てで水着とキャップとゴーグルの三点セットを購入し、一週間経った土曜日の今日、三上さんと一緒に初めてジムのプールを訪れた。
とはいえ僕は五メートルもまともに泳げない人間なので、上級者用のコースへ向かう三上さんと別れてウォーキング専用コースへ。
引き締まった身体にハーフスパッツスタイルの水着を身にまとった三上さんに心臓を鷲掴みされたのもつかの間、三上さんがプールへ飛び込み悠々と泳ぎ始めた瞬間、その美しい姿に目を奪われて、自分がプールへ入る事すら忘れてしまった。
悠々と滑らかに水を切って泳ぐ姿は、まるで海中を泳ぐ魚のようだ。あっという間に二十五メートルを泳ぎきり、これまた悠々と音もなくターンで切り返し、再びスイスイと泳ぎ始めた。
このまま延々と泳ぎ続けるのだろうか。すごいな。浮くことすらままならない自分からしたら、なんていうかもう意味がわからない。三上さんて、もしかして前世はマグロだったのかな。
「どうしましたか、コース分けが不明でしたらご説明致します」
背後から声をかけられハッして振り返ると、スタッフTシャツを着た若い男性が僕にニコリと微笑みかけた。プールのインストラクターさんに違いない。短髪の黒髪に日焼けした肌は健康的で、笑うと見える白い歯が輝いて見える。見るからに運動神経の良さそうなお兄さんだ。
プールサイドに立ちっぱなしの自分が邪魔であったと気付き、慌てて頭を下げる。
「す、すみません、僕は泳げないので、こちらのコースでウォーキングを……」
「そうなんですね、水中ウォーキングも歩き方を工夫すれば、良い運動になります。でもお兄さんはとてもスリムなので、ダイエットというわけではなさそうですね」
ニコニコと微笑まれて気恥ずかしくなり、ペコリと頭を下げて会話を切り上げた。
軽くストレッチをしてから、梯子を使ってプールの中へ入り、身体を沈めてみる。
(わ、想像してたよりあったかい)
温水プールはなかなか悪くない。ウォーキングコースには六十代位の男性がひとりで黙々と歩いているのみで、これなら気が楽だと安心する。
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