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三上さんの前世について考えた日 3
慣れたらクロールや平泳ぎの教室もありますよ、などとプログラムが書かれたホワイトボードを指差しての説明を受け、色々あるんですねぇと聞き入っていると、天野さんが何かに気付いたように僕の後方に向かって笑顔で会釈をした。
つられて振り返ると、三上さんがこちらへ向かって歩いてくるところだった。天野さんとは既に顔見知りのようで、お互いこんにちはと挨拶をしている。
「宮部、水泳に興味が湧いたのか」
そう言った三上さんは少し嬉しそうだ。ここでハイと言ったら、毎週末ジムへ通う事になってしまうのでは……?
「あっ、ええと、どうでしょう……でも初心者教室とかあるんだなあと」
曖昧な言葉をモゴモゴと口にしていると、天野さんが「三上さんのご友人さんだったんですね」と笑顔を振りまいた。
「三上さんの泳ぎはとても綺麗なフォームなので、ジム内でも有名なんですよ」
特に若い女性に、などと小声で悪戯気味な笑顔で囁かれて、僕は頬を軽くひくつかせながら、そうなんですねと相槌を打った。
職場だけでは飽き足らず、こんな所でも不特定多数の女性に狙われているなんて……とんでもない案件だ。
悶々となりかけた時、三上さんにそろそろあがるかと声をかけられ、慌ててハイと答える。
「宮部さん、受付に水泳プログラム表を置いてますので、良かったらご検討くださいねー」
「ありがとうございます、検討します」
笑顔で手を振ってくれる天野さんに挨拶をして、三上さんと僕はスパ施設へと移動した。
◇◇
ジム内のスパはスーパー銭湯並みの広さで、サウナからジェットバス、炭酸泉、大きな内湯に露天風呂まであるから驚きだ。
「ジムのスパってこんなに設備が良いものなんですね。三上さんはジムへ行ってもすぐ帰ってくるから、シャワー位しか無いものだと思ってました」
俄然テンションの上がった僕が可笑しかったのか、三上さんはふっと頬を緩めた。
「まあ実際、シャワー位しか使ってないからな。ゆっくりするなら自宅の風呂でお前と一緒に入る」
「……!!」
ギョッとした僕の顔を見て、三上さんは軽く声を上げて笑った。近くに誰も居ない事を確認してから息を吐く。わかってて言ったにしても、心臓に悪いのでやめていただきたい。
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