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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 11
◇◇◇
なんてキレイな空。
何処までも続く新緑の草原で、大の字に身体を広げて、雲ひとつない青空を眺めていた。
自分以外、誰の気配もない世界。なにも気に留める必要がない。なんて落ち着くんだろう。葉の擦れ合う囁きしか聞こえない。宮部は大きく深呼吸をした。
広い世界。僕は自由だ。ひとりでどこにでも行ける。キレイなものを目にしたり、優しい音を聴いたり、好きなこと、なんだって出来る。
そう考えたら楽しくなって、広い空を仰いだ。
(……けれど)
僕はそれを、伝えたいのだ。
キレイなもの、優しい音、嬉しい気持ちや、涙が溢れるほどの悲しみも、誰かに伝えたい。湧き上がる感情はきゅうと胸を締め付ける。でも「誰か」が誰なのか、わからない。
伝えたい。知って欲しい。あなたに会いたい。
「ーーーー」
名前を呼ばれた気がして身体を起こす。ぐるりと辺りを見回すと、遠くに人影が見えた。逆光で黒い影しか見えないけれど、僕はわかる。知っている。引き寄せられるように、立ち上がって走り出す。
伝えたいことが沢山あるんです。手を伸ばして掴みたい。僕は臆病で何の取り得もなくて、つまらない人間だけど、生きている限り努力は出来る。あなたと一緒に居られるなら、僕はいくらだって。
距離が近づく。あなたは手を差し伸べてくれる。息が苦しくなる程に走って、走って、その手を掴んだ。
遠くで川のせせらぎが聴こえる。
肌触りの良いシーツと、柔らかい枕の感触。目蓋を押し上げると、白い天井が目に入った。隣へ視線を移すと、枕をクッションがわりにして背中をヘッドボードに預けた三上さんが、静かに本を読んでいた。僕の視線に気付くと、ほんの少し微笑んで「起きたか」と言葉をかけてくれた。
そこでやっと自分が寝てしまっていた事を理解し、ガバリと身体を起こす。
「ぼ、僕寝ちゃってましたね?! いま何時……」
「一時間位寝てたな。今は四時だ」
あわわと慌てて動き出した僕の身体は三上さんの右腕にあっさりと抱き寄せられた。サイドボードに本を置いてから、左手で僕の髪を梳くように撫でる。
「モゴモゴと寝言言ってたぞ。どんな夢を見ていたんだ?」
「ほんとですか、うるさくしてすみません」
「煩くないけど、あーとかうーとか言ってたな」
ククと笑われて恥ずかしくなる。どんな夢だったか……全く思い出せない。
でも嫌な気分ではないから、悪い夢ではなかったのかな。
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