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身悶えるほどに甘やかしたい<前編> 16

 部屋へ戻ると三上さんは浴衣に着替えていて、ソファに座りモバイルPCと向き合っていた。僕も浴衣を着ようとしたけれど、サイズが少し大きくて上手く着られずもたもたしていたら、三上さんが笑いながら手伝ってくれた。 「ここで腰に巻いて、出来上がりだ」 「あ、ありがとうございます」  鏡に映る自分の浴衣姿を眺めたあと、三上さんの後ろ姿に目を向けて、男らしい立ち姿にため息がでた。僕はどう見ても子供に毛が生えたようにしか見えない。悲しい。  再びソファに座り直して仕事を始めた三上さんの邪魔にならないように、音を立てないようにお茶を注ぎ、テーブルへそっと置く。  そっと離れるつもりが、腕を引かれて隣に座らされた。ここにいろという事だろうか。  お茶を飲みながら、改めて広い部屋をぐるりと見渡す。この部屋にはテレビがない。テレビのかわりに、音響の良さそうなオーディオプレーヤーが鎮座している。  音楽も良いけれど、今は窓の外から聴こえる音と、三上さんがパソコンを打つ音だけを聴いていたい。 (それにしても……)  三上さんの横顔をこそりと眺めながら、先程の出来事を思い起こした。突然の事で放心状態になってしまったけど、冷静に考えたら自分ばかりあんなにしてもらって、何もお返しをしていないではないか。  考え始めたら顔が熱くなってきた。 「どうした、顔が赤いぞ」  ふいに声をかけられて顔をあげれば、三上さんが僕の顔を覗き込んだ。 「あ、いや……僕だけあんなにして頂いて、申し訳ないというか……み、三上さんは大丈夫かな、とか」 「なんだ、俺の心配か?」  ぷっと笑われて、余計に恥ずかしくなる。いや、こんなこと言っても僕がご奉仕できる事なんて、ロクにありはしないのだけれど。  そうこうしているうちに唇が重なり、ちゅうと音をたてて吸われたあとすぐに離れた。 「俺の事は気にするな。夜を楽しみにしているから」  目尻をさげて微笑まれ、夜の僕は一体どうなるんだろうかと想像したらドキドキして、ますます顔が熱くなった。 <後編へ続く>

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