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いつまでたっても慣れない案件 2

 三上は宮部の髪を梳くように撫で、顔を頭頂部に押し当てる。こんな時、まるで大きな動物に懐かれている様な気分になる。動物図鑑で見た黒豹を思い出し、あんな感じだなと心の中で納得した。  帰宅後何よりも先に自分を抱き寄せ、髪に鼻をすり寄せる三上を可愛いと密かに思いつつ、宮部は勿論口にはしない。 (三上さんに対して「可愛い」だなんて、とんでもない事だ……怒られちゃう) 「風呂に入ったのか」 「あっはい、すみません、今夜も遅いと思ってて、ご飯の準備より先に入ってしまって」  髪の匂いを嗅がれるのがくすぐったいのだけれど、三上が身体を離してくれるまではされるがままでいる。髪から額、瞼、鼻先へ、最後に唇へと触れるだけのキスを受け、それから身体を解放された。 「やっと『一番風呂は家主』に拘らなくなってきたな」  シャワーだけだから一番風呂には入ってません、と心の中で独りごち、とはいえここで三上の機嫌を損ねる必要もないので、口角を上げるだけに留めておく。  三上はフッと目尻を下げて微笑み、宮部の黒髪を愛しげに撫でた。三上は宮部の髪によく触れる。その指先はいつも優しくて、それだけで宮部は幸せな気持ちになる。同時に、こんなに幸せを貰って良いのだろうかと不安にもなる。毎日がその繰り返しだ。  煮込みハンバーグは十分程で完成するので、平日によく作る。両面を軽く焼いてから、赤ワインとケチャップ、ウスターソースを入れて、蓋をして十分程煮込めば出来上がりだ。簡単だし、ハンバーグ好きの三上さん(可愛い)が喜んでくれるのでよく作る。タネは手を抜いて、駅ビル地下の肉屋で購入する。料理は好きだし苦ではないけれど、平日の夜は時短も重要だ。タネから作るハンバーグは休日料理と割り切っている。  付け合わせにキノコとブロッコリーを軽くローストして、レタスのサラダを皿に取り分けた頃に、風呂上がりの三上がリビングへと戻ってきた。  いつものように三上のグラスにビールを注ぎ、自分のグラスに麦茶を注ぎ、軽く乾杯して夕食が始まる。

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