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いつまでたっても慣れない案件 8

 大好きな祖母が亡くなって、身寄りもなく独りぼっちになった時、宮部は独りで生きていく為に自分はどうしたら良いのかを考えた。多くのものを持たず、自分の手の中で収まる範囲の生活をしよう。他人に頼らず生きていけるように、周りに迷惑をかけることのないように。  生まれて初めて胸が焦がれる程に好きになった人は男の人で、自分とはまるで別の世界の遠い存在で、想いが叶うなんて想像も出来なかったし、しちゃいけないと思っていた。  こんな自分は一生独りでいるんだろうなと、思っていたのに。  思い出したら目の奥が熱くなってきて、宮部は大きく深呼吸をしてから、スティッククリーナーを持ち直した。  自分に幸せをくれた大好きな人の為に、自分がいま出来る事をしていこう。 「まずは掃除、掃除だ!」  宮部は部屋に残るかすかなにおいを振り切るように、スティッククリーナーの電源をオンにして、隅から掃除を始めた。

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