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いつまでたっても慣れない案件 10
(へ、平常時であんな……天野さん)
逸らしたついでに湯の中で横たわっている自分のささやかな竿に視線を落とし、まるで大人と子供じゃないかと軽く落ち込む。
思い起こせば自分以外の人間のそれを目にして初めて衝撃を受けたのは中学三年の修学旅行だった。小学六年生の修学旅行ではみんな似たり寄ったりなサイズだったはずなのに、気付けば周りは皆育っていて、自分の息子だけが育っていない事実を目の当たりにし、愕然とした。
ショックの余り無口になってしまった自分を周りの友達は「ちゃんと剥けてるから大丈夫だよ」と慰めてくれた。友の優しさが心に染みた修学旅行の思い出である。ちなみにあれから十年近くも経つというのに、あの頃からサイズは殆ど変わっていないように思える……いや流石にそんな筈はない。そんな筈は……。
「……さん、宮部さん?」
ハッと我に返り隣を見れば、天野が肩を並べて湯に浸かっていた。大丈夫ですかと心配そうな表情で覗き込まれ、「だ、大丈夫です」とどもり気味に言葉を返す。
「お風呂が気持ち良くてぼーっとしちゃいました? 運動の後のお風呂は最高ですからねぇ」
ハハハと笑う天野の横顔を見て、宮部もフフフと頬を緩めた。天野はインストラクターの中でも一際気さくで人懐こく、会えばいつも宮部の緊張を和らげてくれるものだから、宮部の中で「良い人」認定済みだ。
「天野さんは、今日のお仕事は終わりですか?」
「あ、そうなんです、今日は早番で。いつもはシャワーだけ浴びて帰るんですが、風呂にきて正解だったな~、宮部さんに会えた」
にっこりと微笑まれて、思わず宮部も笑顔を返した。とはいえプールの先生と裸のお付き合いっていうのもなんだかちょっと恥ずかしい。天野の方は何も気にする様子も無く、ニコニコしながら言葉を続けた。
「そういえば今日は三上さんとご一緒ではないんですね。あとからいらっしゃるのかなと思っていたんですけど」
「あ、はい、三上さんは今日明日と出張に出ていて」
「休日返上ですか、大変だなあ」
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