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いつまでたっても慣れない案件 11
自分が三上の家に居候をしている事は、以前会話の流れで話をしている。火事の現場に居合わせたばっかりに自分の面倒を見てくれていると話したら、「三上さんて本当に素敵なかたですね」と感動していた。三上を褒められると宮部も嬉しい。
「あれ、てことは宮部さん、夜ご飯はおひとりですか? もしよかったらこの後焼肉行きませんか?」
「焼肉?」
突然の誘い、しかも焼肉限定だ。何事かと少々驚いて聞き返せば、昼に焼肉が浮かんでしまってそれからもうずっと頭の中が焼肉で、と力説された。
「ああ、そういうのありますよね。口の中がもう焼肉って感じの」
「そうそう!」
くだらない話に二人で笑ったあと、そんな話をされた宮部も頭の中が焼肉になってきて、じゃあ二人で肉を焼きにいきましょうと話がまとまった。
近くに美味い焼き肉屋さんがあると言う天野さんに付いて行くと、駅前通りから一本奥に入った路地に店はあった。
入口から奥に入ると思ったよりも広い店内で、綺麗な椅子やテーブルを見てもまだ新しい店だとわかる。
「このお店、半年前に出来たばかりなんですよ。良心的な値段で美味いから何度か来てるんです。宮部さん、ビールで良いですか?」
天野に聞かれて、アルコールにするか一瞬迷った。けれどオーダーを待つ若い店員さんが真横に立っているので焦ってしまって、思わずハイと答えてしまった。
(一杯飲んだら烏龍茶に切り替えよう)
ビールで乾杯をして、早速運ばれて来た牛タンねぎ塩から焼き始める。天野はタンの上に乗っているネギを取り除いてから網の上にタンを二枚広げた。肉の焼き方には慣れているようなので、自分は下手に手出しをしない方が良いかもしれない。宮部は手にしたトングをテーブルへ戻して、様子を見る事にした。
「宮部さんはここに住んでどの位ですか」
天野はタンを裏返し、その上にネギを乗せたながら宮部に問いかける。その様子を眺めながら、ハイと答えた。
「大学卒業まではずっと長野に住んでいたので、昨年初めてこっちへ引っ越して来たんです。天野さんはずっとこちらですか?」
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