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いつまでたっても慣れない案件 13

「三上さん?」  突然三上の名前が出てきた事に驚いて、口に入れたばかりのホルモンをそのまま飲み込んでしまった。慌てて喉に烏龍茶を流し込み、目を白黒させた宮部を見て今度は天野が慌てた。 「宮部さん、大丈夫?」 「だ、大丈夫です……あの、三上さん……なんて?」 「ああ先日、自慢されたんですよ。『宮部は美味しいものを食べている時の顔が特に可愛いんだ』って。可愛さ余って手の中に閉じ込めたくなるとか、もう完全に惚気られたんですけど、確かにそうなる気持ちもわかるなぁと」 「ブホッ!」  今度こそ盛大に咽せた。 「わっ宮部さん大丈夫?!」  慌てる天野を静止することも出来ず、おしぼりで口元を拭きながら辛うじて『だ、大丈夫です」と返答した。  いやそんな事よりも。 (じ、自慢て、惚気って……な、なんだ、どういう……??)  自分は天野に対して、三上との関係は居候させて貰っているという事しか話していない。自分と恋人関係にあるなんて事が他人に気付かれでもしたら、三上にとって悪影響でしかないと思っているし、勿論、外で匂わすような素振りをした覚えもない。 (三上さんだって、そんな、まさか、どうしよう)  三上は世間話程度に自分の話をしただけに違いない。それを天野が変に誤解したのだろうか。どうフォローしたら一番良いのかわからずモゴモゴとしていると、天野は「あ」と呟き右手を自分の口元に添えた。 「俺が知ってるって、もしかして宮部さん知らなかった? ……俺もしかして余計な事口にした感じですかね、これ」 「し、知っている、というのは……」  天野はジョッキに残っていたビールを一気に煽り、プハーと息を吐いたあと、開き直った表情で宮部を正面から見つめた。 「三上さんは俺が異動する前からあのスタジオの常連さんで、俺の先輩と横の繋がりもあって、横って言うのは性的指向が同じ、ええと、つまり俺と三上さんはその……仲間としても親しくして頂いていて」  ビール一杯しか飲んでいないはずなのに、頭がぐるぐるしてきた。焦げる匂いがする。あ、天野さん、ホルモン焦げてる、忘れてる。じゃない、どうしよう、ついていけない。だってそんなの、三上さんは一言も……。 「なのでお互いの恋愛事情とか、まあまあ意見交換してます。ハハ」  ハハって。  元気にビールのおかわりを注文する天野を眺めながら、ふと頭に浮かんだ。三上さんの恋愛事情。二年前から……。

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