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いつまでたっても慣れない案件 14
「宮部さん、ハラミが焼けましたよ~。これマジでうまいですから!」
気づけば焦げたホルモンは既に取り除かれていて、網の上には美味しそうな焼き色をつけたハラミが乗っていた。
「そろそろ網を交換してもらおうかな。ついでに追加注文しましょうか、宮部さんスープとか頼みます?」
話しかけてもぼんやりとした表情で、ハラミを見つめたまま言葉を返さない宮部に気付いた天野は、宮部の顔の前で左手をひらひらと振ってみた。
「宮部さん、宮部さん?」
「はっ、すみません! ええと、なんでしたっけ」
慌ててハラミを口に入れてもぐもぐと咀嚼する宮部を天野はじっと見つめたあと、突然両手を顔の前で重ね合わせ、「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「わっ! え、天野さん!?」
「すみません、俺調子に乗ってべらべらと……セクシャルマイノリティについて、宮部さんの気持ちも考えずに話すべきじゃなかったです」
さっきまで元気だった天野が突然しょぼくれて肩を落とすものだから、宮部は驚いて椅子をガタンと鳴らして立ち上がりかけた。
「そんな全然、違います! ええと、そこは確かにびっくりしましたけど、あ、びっくりしたのは三上さんが誰かに僕の話をしてくれていたという事についてで……びっくりしたけどう、嬉しいというか、いや恥ずかしいんですけど、ええと」
「うーん? じゃあ、俺がゲイで今一緒に肉囲んでるのとか、大丈夫ですか?」
「えっ、楽しいです、嬉しいです、誘ってもらえて」
慌てて力強く答えると、天野はパチパチと数回瞬きをした後「なんだ良かったー」と笑顔に戻った。
(あ、良かった……)
自分のせいで天野を不愉快な気持ちにさせてしまったと、不甲斐ない自分を心の中で叱咤する。なんでも顔に出してしまうのは昔からの駄目な癖で、気を付けなければと首を垂れた。
「でもじゃあ宮部さんの元気がなくなったのは他に理由があるわけですね? 俺が余計な心配させちゃったのであれば言ってください。あ、ちなみにあり得ないですけど三上さんが俺とか俺の先輩とかと恋愛沙汰的な間違いが起きたりとか、過去も現在も一切ありませんから! マジ有り得ないですから」
念のため二度言いますよと真面目な顔で繰り返す天野の勢いに圧倒されて、思わず笑ってしまった。
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