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いつまでたっても慣れない案件 16
十年。
(長いつきあいだったのだろうと思ってはいたけれど……)
リアルな数字を聞いてしまうと、予想していた以上にその事実は心に重くのしかかる。別れを切り出したのも柚からだったのだと知り、更に気持ちは沈み、スウと血の気が引いていく。
(十年か……十年前って、僕は何をしていたっけ)
単純に考えて十四歳。中学二年生だ。自分はヘルメットを被り自転車を走らせて中学校へ通っていた。田んぼ道を往復していた頃、二人は既に恋愛をしていたのだなと想像したら、自分と二人の間には見上げても先が見えない程の高い壁が立ちはだかって、どんなに頑張っても手の届かない、超えることなど決して出来ない脅威に思えた。
齢《よわい》二十四の宮部にとって十年という年月はあまりに長い。今の自分がレベル1なら柚はきっとレベル100位で、どうやったって太刀打ち出来ないじゃないかと項垂《うなだ》れた。
比べる必要も戦う必要もないと頭の隅では理解していても、それでも考えてしまう。
自分は秀でた才能も自慢できるものも何もない。悲しい程にちっぽけな人間だ。そもそも三上が何故こんな自分の事を好きだと言ってくれるのか、正直未だによくわからない。それこそ魔法にでもかかっているのではないかと、時々不安になる。
(はっ、いけない、また態度に出てしまう)
目の前には天野がいるのだ、暗い顔をしてはいけないと思い直し顔を上げると、愕然とした表情の天野と目が合った。
「宮部さんもしかして、俺……今かなり余計な事、口走りましたね……?」
両手で頭を抱え込んだ天野を前に、宮部の方が慌てた。
「いえっ大丈夫です! 全然大丈夫です! 天野さんは何も変な事言ってません! ただ単に僕が……常日頃から自分に対して自信がないだけなので」
「えっなにそれ、宮部さんちょっと待って。俺はまだ宮部さんと知り合って間もないけど、いつも会うたびキラキラしていて、すごく素敵で、仲良くなりたいなってずっと思ってたんだよ?」
驚いた表情の天野の視線の先には自分がいる。キラキラだとか素敵だとか、誰の事を言っているのだろうかと数秒考え、それから「えっ?」と聞き返した。まさか今の言葉は自分に向けられたものなのだろうか。
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