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いつまでたっても慣れない案件 17

 天野はこんがりと焼き目のついたホルモンを宮部と自分の小皿へ取り分けてから、玉ねぎとにんじんとピーマンを焼き始めた。網の中央にはハラミを乗せる。迷いなく動く天野の手先を見つめながら、この人は器用な人なのだろうなと思った。  天野がトングをテーブルへ置いたところで顔を上げると、ほんのりと微笑む天野と目があった。天野は、宮部が感心する程にくるくると表情が変わる。そこに誤魔化しや嘘は見当たらない。 (不思議なひとだな)  コミュニケーションが得意でない宮部でも一緒にいて窮屈さを感じない。魅力的な男性だ。自分もこんな風になれたら周りに不愉快な思いをさせる事も少ないだろうにと、羨ましく思う。 「そういえば宮部さんを初めて見た時は、三上さんのファンの子かなぁと思ったんだった」  ププと思い出し笑いをする天野を見て、自分の行動を思い出す。初めてジムのプールへ行った時、三上の泳ぐ姿が余りにもカッコ良すぎて、自分がプールに入る事すら忘れて三上の泳ぎを目で追っていた。プールサイドでいつまでもボケっと突っ立っていたものだから、天野に声をかけられたのだ。一部始終を天野に見られていたのだと改めて気付き、今更ながら耳まで熱くなってくる。 「声をかけてみたらとても礼儀正しくて、プール利用中は常に周りへの気遣いを心得てるし、しっかりした人だなって思ったんですよ」 「えっ、気遣い? そんなの全然」  何を見てそう思ったのか理解出来ずに口を挟むと、うんうんと頷かれた。 「気にしてない辺り、宮部さんにとって全部自然体なんですよ。でも見てる側にはわかります。水泳教室で指導している時も、全身で耳を傾けてくれるし、一つ一つの動作が丁寧で真面目で一生懸命で、あーこの人職場でもきっとこうなんだろうなって」  大きく口角を引き上げて微笑む天野に戸惑いながら、口に入れたホルモンをはむはむと噛みしめる。自分はひとより要領が悪いと自覚している。何をするにも自分に近道なんて芸当は無理だから、ひたすら地道に一歩ずつ進むしかない。物心ついた頃から現在に至るまで「地道にコツコツ」が自分の信条だ。

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