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いつまでたっても慣れない案件 19

「コンタクトは? ゴーグルすればコンタクト入れてても全然大丈夫だよ」  コンタクトと言われてふと、以前云われた三上の言葉を思い出した。 「コンタクトは、三上さんに反対されたんですよね……あ、水泳行くよりもっと前の話ですけど」 「反対? なんで?」 「うーん、眼鏡がいいから眼鏡でいろって。三上さんは眼鏡が好きなんですかね……本人は視力良いみたいだし、眼鏡に憧れでもあるのかなあ」 「そうなの? 眼鏡外してる宮部さんも、俺はすごく良いと思うけど」 「はは、ありがとうございます。三上さんに、眼鏡外すのは自分の前だけにしろって言われたから、あんまり見た目良くないのかなって思ってて」  あははと笑って正面を見れば、天野は右手で口元を押さえ、肩を揺らしながら笑っていた。 「天野さん?」 「ごめ……くく、なるほど、ふふ……やばい、三上さんが目茶苦茶可愛い」 「えっ」 「いやいや、なんでもない。ふふふ、話を戻すけどほんと、宮部さんはもっと自分に自信持ってほしいな。他人と自分を比べる必要なんてないし、あなたは素晴らしい人だよ。少なくとも俺は宮部さんの大ファンだから」  ナチュラルに言われ、言葉に詰まる。ファンだなんて、恐れ多い。二十四年間生きてきて、一度も言われた事のない言葉だ。お世辞だとわかっていても照れてしまう。 「あの三上さんが、メロメロにされてるんだもんなあ」 「め、めろめろって」 (……あ)  ふと気付けば、先程まで渦巻いていた泥色の感情が消えていた。過去ではなく、現在《いま》の三上の話をしてくれる天野の言葉はどれも明るくて優しくて、仄暗い水の底に沈みかけていた宮部の心を、明るい場所へと引き上げてくれる。  焼きあがった野菜を取り分けてくれる天野に礼を言い、玉ねぎを一口齧ると、野菜の甘味が広がった。美味しさに頬を緩めれば、天野も「野菜も美味いよねぇ」と頬を緩めた。ハラミも柔らかくて美味しい。全部美味しい。 「天野さん、カルビを焼いてもいいですか」 「お、ありがとう、よろしく」  網の上にカルビ肉を二枚乗せ、烏龍茶をグッと飲み干した。その勢いのまま通りかかった店員に声をかけ、烏龍ハイをひとつ追加注文する。 「宮部さん、ウーロンハイって、お酒で大丈夫?」 「はい、少し飲みたくなりました。少しだけ」 「はは、もし宮部さんが酔っ払っても、俺がちゃんと家まで送り届けますからね」  そこまで飲みませんと笑いながら、ハイボールへと移行する天野さんの方が心配ですと、心の中で返答した。

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