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いつまでたっても慣れない案件 20

◇◇◇◇  駅を挟んで逆方面の天野と駅前で解散し、マンションに帰宅した頃には二十二時を回っていた。  十八時からスタートして実に三時間以上も飲んで食べて会話していたのかと、壁時計を見上げて乾いた笑いを漏らす。リビングのソファに腰を降ろした途端、強烈な疲労感に襲われた。水泳教室を一時間、その後スパで一時間、そこから更に飲んだわけだから、やはり身体は疲れていたらしい。 「はあ、疲れた……けど、楽しかったなあ」  天野との他愛のない会話達を思い出し、自然と笑いがこみ上げる。ふふ、と思い出し笑いをしたあと、水着一式を取り出すためにバッグを開き、そこでやっと、スマートフォンの存在を思い出した。  そういえば、今日一日まともにスマートフォンをチェックしていなかった。もしかしたら出張中の三上からラインが来ているかもしれないと、慌てて取り出して画面を開き、直後に頭から血の気が引き、硬直した。  二十時にラインメッセージが一件。 『明日は予想より早く帰れそうだ。そっちは変わりないか』  二十一時に電話着信が一件。  二十二時に電話着信が一件。今から十分程前だ。 「ど、ど、どうしよう……」  三上は夜は部長達と飲み会だと言っていたから、もしかしたらまだ外に居るのかもしれない。ひとまずラインで返信を……ともたついているうちに、三度目の電話着信が表示された。ラインが既読になった途端の電話。タイミングが良すぎる。  宮部は喉からひゅっと掠れた声を出し、慌てて通話ボタンを押した。 「は、はいっ、宮部です」 『今、家か?』  三上の単刀直入な出だしに焦りが増幅する。もしかしなくても、恐らくご機嫌斜めだ。妙な誤解を生む前に、まずは謝罪をしなくては。三上の背後からざわめきが聞こえてくるので、やはり外に居るのだとわかる。 「三上さん、お疲れ様です。ラインも電話もいただいていたのに気付いたのが今で、すみません」 『今は家に居るのか』  二度聞かれてしまった。 「は、はい、天野さんと焼肉屋さんでご飯を食べて、ついさっき帰宅しました」 『……天野くんと? 二人で?』  怪訝な声で返されて、ますます焦る。

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