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いつまでたっても慣れない案件 28

 手首を縛られたと気付き慌てても、結び目が解ける気配はない。 「み、みかみさん?」 「俺が居ない間に天野と二人で出掛けているし」 「えっ」 「俺を妬かせてどうするつもりだ」  突然天野の名前が出てきてヒュッと喉から声が出た。キュッと眉を寄せた三上に見つめられ、悪い事をした感覚は全くないのに、そんな表情で見つめられたら心臓はキュウと締め付けられたような痛みが走る。まさか三上が自分の事で何かに対して嫉妬するなんて、そんな事があるのだろうか。 「天野の前でどんな表情《かお》を見せたんだ」 「ど、どんなって、普通に飲んで食べて、お喋りしただけですけど」 「天野に何かされてないか」 「さ、されてません! 天野さんに失礼ですよっそんな」  思わず語気を強めると、三上は不本意げに口を閉じた。左手で宮部の頬を撫で、右手で宮部の額を撫でる。撫でられる宮部はこそばいけれど、両手を拘束されてどうする事も出来ず、自分を見つめる三上の両眼を見つめ返した。  天野は凪さんに片想いをしていると言っていた。それを一瞬言葉に出しかけ、既《すんで》のところで飲み込んだ。三上の前であの人に関わる話題は出したくないと思ったからだ。余計な事は言わないに限る。 「心配だ、お前は可愛いから」  至極真面目な表情で見つめられ、宮部は両眼を見開いた。この人はとんでもない事を言っている。それは違うと全力で説明しなければ。 「三上さん、大変申し訳ありませんがそれは無いですっ……!!」 「無自覚が一番危険なんだ、ちゃんと理解して行動しろ」 「ひゃ、んぅ」  三上の両手に耳を塞がれ、唇は唇で塞がれた。三上の舌先に口内を弄《まさぐ》られ、卑猥な水音が耳に響く。舌の根元から舌先にかけてぐるりと巻き取られ、吸い上げられて全身に痺れが走る。気付けば身体は熱を持ち、キスの合間に乱れた息を吐く。  心の準備なんて必要なかった。強い愛情と激しい欲情に、あっという間に飲み込まれていく。  左胸の尖りを指先で引っ掻かれ、ピリリと痺れが走る。宮部の胸は薄く、ツンと尖った先端は小さく控え目で、色は薄い桜色だ。  宮部はこれまで貧相な自分の身体を好きではなかったけれど、三上は何度も愛しげに触れて、好きだと囁き抱きしめてくれるから、自分も自分の事を以前よりも、好きになってきたと思う。  三上が愛してくれる自分の事を、自分もちゃんと好きになりたい。  自分に自信が持てる人間になりたい。

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