2 / 211

第2話

ハルの存在を知ったのは中学生の時。 すごいイケメンで、お金持ちがいるんだぞって同級生の間で噂になった。 それと同時に、でもその子はヤクザの息子で近寄り難いんだってことも。 そんな噂をされる子を一度だけでも見てみたくて、その子のいるらしい教室に見に行った。 そこでその噂の対象となっていたのがハルだったのだ。 確かに、中学生の頃のハルは尖っていて取っ付き難い印象で、あまりに整った顔に切れ長の目が余計にそう思わせる。 「名前は浅羽晴臣っていうらしいよ」 「晴臣…」 「白石とは違って男らしい名前だよな。ほら、お前下の名前は陽和じゃん?」 「うるさいな!」 その時はただカッコいいなとか、ちょっと怖いなとか、そんな感覚だったと思う。 だからこそ、俺はハルに惹かれていった。 そして中学の間、俺はこっそりとハルのことを見ていた。それは単なる興味じゃなくて、完全に好きになっていたから。 あの人と同じ道を歩いてみたいって、高校もわざわざハルの通う所を探し当てるなんていうストーカーまがいな事も平気でしてた。だからこそ今があるんだけど。 高校に入ってからは勇気を振り絞ってハルに話しかけて、そしたら意外と軽くて見た目よりよく話してくれるし楽しくて、そうして友達になった。 ハルが帰った後、残りの授業は真面目に受けて家に帰る。 家には母さんがいて俺を見て「おかえり」と優しく声をかけてくれた。 手を洗って部屋にこもりハルのことを考えるとだんだん恥ずかしくなってくる。 暑いから冷房を掛けて床に座りボーッとしてると「陽和ー!」と母さんが俺の名前を呼んだ。 ゆっくりと立ち上がって母さんのところに行くと笑顔でお金を渡してくる。 「おつかい行ってきて」 「何で学校にいる時に言ってくれないの!帰り買ってこれたのに・・・」 「忘れてたのよ。お願い!」 「・・・わかったよ」 制服のままは嫌だから服を着替えて、近くのスーパーまでの道を自転車で行く。 生温い風が頬を撫でて気持ち悪い。 スーパーについて冷たい店内に天国だぁ。なんて思っていると肩をとんとんと叩かれる。 振り返れば何故かハルがいて驚いた。 「何でいるの!?」 「お前が見えたから追っかけてきた」 「は?何で?」 「え・・・何でだろうな?」 そうして話をしていると「晴臣さん!」とスーツを着たカッコいい大人の男の人がこっちに向かって走ってくる。 「勝手に動かないでください!」 「だって高校の友達がいたから」 「それは・・・とりあえず、晴臣さんに怪我でもあれば大変なんですから。俺でも鳥居(トリイ)でも、どちらでもいいので連れて歩いてください」 「わかったよ。」 大人の人なのに、明らかに俺たちより年上なのにハルに対して敬語を使い、ハルはその人にタメ口で話す。 ・・・中学の時、噂になったヤクザの息子っていうのはやっぱり本当なのかな。 でも、もしかしたら普通にただのお金持ちで、狙われるから警護がついてる、とか? 「この人は・・・?」 「ああ、俺の・・・家族みたいな?」 男の人について聞けば曖昧な言葉が帰ってくる。男の人は眉を寄せてそれから小さく息を吐き頷いた。 「宜しくお願いします」 「ぁ、え、こ、こちらこそ、宜しくお願いしますっ!」 頭を下げてそう言うと「何か買い物か?」と話しかけてきたハル。 「うん、おつかい」 「ああ成る程。どの家でも母さんは強いもんな。頼まれたら断れねえよ」 「そうそう。ハルは?買い物?」 「まあそんなとこ。じゃあな」 ハルは俺にそう言って、家族だって言ってた男の人とどこかに行く。 「あ、陽和」 「え・・・?」 突然ハルが振り返って真剣な顔を見せる。 「帰り、気をつけろよ」 「あ、うん。ありがとう」 多分、今までに見たことがないくらい真剣な表情だったと思う。

ともだちにシェアしよう!