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第5話

突然、体から手が離れた。 上にあった重みも感じられなくなって、目を開けると尾田くんがベッドから落ちて痛みに悶絶してる。 「陽和」 「え···ぁ、は、ハル···?」 「何された。その頬はどうした。」 昨日、スーパーでわかれた時くらいの真剣な表情。 ゴクリと固唾を飲めば、少し優しい顔になって「何されたか教えて」と殴られた頬を撫でられる。 「な、ぐられた、の」 「痛かったな。···それで?」 「あ、あと···キス、された」 ハルの手が頬からするっと下りてきて俺の唇に触れる。 「洗おっか」 「洗う···?」 「うん。」 ハルの服の袖がぐいっと俺の口元を拭う。 「綺麗に洗おう」 「ぁ、うん」 優しい顔をしていたハルは「待ってろ」と言って床に落ちてる尾田くんに視線を向ける。 その時、少し温度が低くなった気がした。 「おい尾田、お前何で陽和のこと殴った」 「っ、暴れたからだっ!」 「何で陽和が暴れたのか教えろよ」 「そ、れは···」 顔の色がだんだんと悪くなっていく尾田くんにハルが怒り出す。 「テメェが余計なことしたからだよなぁ?」 「ひっ!!」 尾田くんに近付いて軽く蹴りあげたハル。 尾田くんはそれだけで怯えて俺に大きな声で謝っては保健室から出ていく。 「陽和」 「···はい」 「こっち来い、頬冷やすぞ」 ベッドから降りてハルのいる近くの椅子に座るとまた頬を撫でられる。 それがピリピリとしてちょっと痛い。 「痛い?」 「うん」 「殴られたの、初めてか?」 「···うん」 「うーん、この調子だと痣になるかもな。気になるなら暫く隠してた方がいい」 冷凍庫に入ってある保冷剤をとってガーゼに包んで俺の頬に当てるハル。 頬の怪我なんて俺にとってはどうでもいい。今一番ショックなのはキスをされたこと。 「ぇ、おい、陽和···?」 「ん···ごめん」 勝手に涙が溢れてきて急いでゴシゴシと目元を拭う。 「そんなに痛かった···?」 「違うくて···キス、されたのが、嫌で···っ」 まるで中学生の女子みたい。 たかがキス一つでなんだって、ハルは思ってるに違いない。 「陽和」 「ん···っ」 「大丈夫、さっきのは唇と唇が当たっただけだ」 「それをキスって言うんだよ」 ハルは俺の言葉に困ったような表情をする。 「もう泣くな」 「···うん」 「エタノールあるぞ」 「いらない」 出来るなら、好きな人にキスして欲しい。 そう思ってハルを見ると目を逸らしたハルが「何でそんな顔すんの」と少し赤い顔で聞いてくる。 「え···?」 「何でもない」 「ハル···?」 「何でもないから、その顔やめろ」 ハルの片手に目を覆われて視界がゼロになる。 「見えない」 「見えなくしてるんだよ」 「そう。···あ、そうだハル。聞きたいことがあったの」 そう言うと手を離すことなく「何」と聞いてくる。

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