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第8話
翌日、鏡で顔を見たらすごく不細工だった。腫れた頬が余計にそう見せる。
母さんに心配されたけど、ちゃんと行くって言った手前、休むなんて選択肢はないから、遅刻はするつもりでゆっくり家を出た。
学校に着くと皆が俺を腫れ物扱いするから、気分が悪い。
教室を出て空き教室に行くとそれも直って、持ってきていたお菓子を食べる。
「ハル来てないのかな」
それならタイミングはいい。
いや本当は会いたいけど、会いたくない気持ちとせめぎ合っててわかんなくなってる。
1人でその部屋で優雅に過ごしてると突然ドアが開いて「おはよう!!」ってでかい声が聞こえてきてびっくりした。
ドアの方を見たらハルがいて、心臓がバクバクと煩い。
「お、おはよう···」
「やっぱ腫れてんな···痛くねえか?」
「う、うん」
頬に触られてドキリとした。
体がだんだん熱くなって、どうしよう、やっぱり俺、頭おかしくなってる。
「陽和?どうした?」
「は、離して!」
心臓が痛い。
ハルの手を振り払って俯くと「え···」とハルの驚いた声が聞こえる。
「悪い、俺何かしたか?」
「っ、な、んでもない···ごめん」
慌てて顔を上げてそう言うとハルは困ったように笑う。
「いや、何か悪いな」
「違うっ」
「一人でゆっくりしたかったからここに来たんだよな。邪魔して悪かった。俺は教室いるから何かあったら───」
「違うの、ハルっ」
さっき振り払ったハルの手を掴む。
動きを止めたハル。俺はなんだか泣けてきて涙がポロポロ落ちていく。
「陽和、言いたい事あるんじゃねえの?俺に教えて」
「っ、だ、だめ···でも、あの···さっき、ごめんなさい」
「それはいいよ。痛くねえし、大丈夫。」
「はぁ···は、はる、どうしよう」
胸が痛い。
今何かを話せば間違えてハルに想いを伝えそうで、怖い。
「何か不安なことがあるなら、俺はちゃんとお前の話聞くよ。だから言いたい事は言えばいい」
「で、も···でも、そしたら、ハルは···」
もう二度と、俺に向かって笑うことも、話しかけることも、なくなるかもしれない。
「···っ、何でもない。さっきは本当ごめんね。昨日のこともあってちょっと不安になってただけなんだ。ビックリさせたよね、ごめん」
「···本当にそれだけだな?」
「うん!」
涙を拭って笑顔を作る。
ハルは簡単に騙されてくれて、ありがたい。
「じゃあ···教室行ける?」
「うん、一緒に行く」
俺はハルの隣に居られるだけでいい。
ハルに笑顔を向けてもらえるだけでも幸せ。
そう思いながら、本当に言いたいことを胸の中に閉じ込め、鍵を閉めた。
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