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第9話
ずっと伝えたくて仕方なかったあの言葉を胸に閉じ込めてからしばらく経った。
何度も何度も苦しい思いをして、ハルに彼女が出来たかもって噂が流れたり、好きな人ができたらしいって話を聞いた時は、その相手をどうにかしてやりたい気持ちになったことは何度もある。
けれど、俺は結局何もせずに、今日もハルの隣に居る。
少し冷たいけど、ふわふわと優しい風が頬を撫でて、穏やかな時間。
次第に心までも浄化されるような気になって、眠たくなってくる。
「陽和」
「うん、なぁに?」
眠たくて、話しかけてきたハルをぼーっとした顔で見る。
グラウンドにあるベンチで、優しい時間を過ごすのは大好き。
ハルが着ていたカーディガンの袖をぐっと握って「あのさ」と何故か緊張しながら言葉を続ける。
「これ、冗談じゃなくて」
「うん」
何だろう?冗談?ハルの言う言葉には今まで本当のことしかなかったから、今更嘘をつくなんて思ってないよ。
「俺、お前のこと、好きなんだ、多分」
思い切り、声が出そうになった。
でもそれを堪えて平然を繕う。
でもいやちょっとまって、多分?
多分って何。
「多分···?」
首を傾げてハルを見ると、その首が向い一度縦に揺れる。
「まだ、ハッキリしてないんだ、すごく、迷ってる」
「何で···?」
「陽和は俺の家がどんなのか、知ってるか?」
「ううん、知らない」
嘘。本当は全部知ってる。
でも知らないふりをした方がきっと、ハルの口から全てを聞ける気がした。
「極道なんだよ」
「かっこいいね」
間伐入れずにそういった俺にハルは目を丸くする。
「えっと······、は?」
「え?かっこいいでしょう?だって、ハルとハルの親がそこを仕切ってるなら、悪い人たちを倒すことだけをしてると思うんだ、俺」
「何で···」
「だってハルは、間違ってることをしないもん」
今まで我慢していた言葉は、蛇口を捻った水が溢れるように、口から出ていく。
「だからね、例えば、ハルが俺のことを好きって、言ってくれるなら、それが本当の本当なら、俺は嬉しいよ」
「嬉しい、って···」
「俺にとって、ハルはハルだからね、家のこととかどうでもいいし」
「あの、陽和···?」
「だから、ハルが本当に俺のこと好きなら、俺もその気持ちに答えるつもりでいるよ」
本当はずっと欲しかったんだ。
ハルがずっと、でも俺は臆病だから言えなかった。
それを口に出来るハルはすごく強い。
俺はずるいから、だから、今聞くよ。
「ハルは、俺のこと、好き···?」
そう聞くとハルは、俺の言葉を肯定するように、唇に自らのそれを合わせた。
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