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第29話
「世那と話ししてたのか?」
「うん」
「何の?」
「···え、っと」
言いづらくて視線を逸らすと「秘密事か」と口元を尖らせる。
「違う違う。ねえハル、それ、皺くちゃなってるよ」
「あっ」
ハルが手に持っていた紙がくしゃくしゃになってしまってる。それを指摘するとマズイ、と眉間を寄せた。
「それ、大切なやつなの?」
「ああ、今度の会合で···」
「会合?」
「今の状況をどうするかをそれぞれ考えて皆で話し合うんだ。」
ハルが資料をテーブルに置きながら、「まあ俺はどうするかとか、もう決めてるんだけどな」と言ってソファーに腰を下ろした。
「お前は何も心配しなくていいよ、早く終わらせて···今度こそちゃんと計画して旅行行こう」
「···ねえ、ハル」
「どうした?」
俺の方に顔を向けたハルに世那さんと話したことを言うべきなんだろうか。と悩んでしまう。
「俺、ここにいていいのかな」
「···何か不安なことでもあるのか」
ゆっくりと腰に負担がかからないように起き上がって移動し、ハルの隣に腰掛ける。
「俺は弱いから、ハルと一緒にいてもハルを支えてあげることも、守ってあげることもできない」
「そもそも俺は守られる質じゃねえんだけどな···。陽和が弱いかどうかはわかんねえけどよ、少なくとも俺は昔からお前に支えてもらってる」
「でも俺、何もしてないもん」
「お前はそう思うかもしんねえけど、俺はお前とこうやって話をするだけでも嬉しいし、楽しいと思うんだ」
ハルに肩を抱き寄せられる。
顔を上げるとキスをされて、だんだんと激しくなっていくキスに声が漏れる。
「っ、ん···ふ、っ、ぁ···」
「…抱きたい」
「い、いいよ」
完璧なムード、もうこれは止まることは無い。
そう思ってたのに、デカい咳払いが近くで聞こえてビクッと肩が上がり思わずハルに抱き付いた。
「───···命(ミコト)か、お前空気読めよ」
「俺は仕事をしに来てるので」
ゆっくり振り返るとかっこいいでも強面のお兄さんがいた。命って、ハルは呼んでいたと思う。
「お前は会合に参加しねえんだろ?ならその間休みやるからユキと遊びに行ってこいよ」
「そうしたいのは山々なんですけど···サボっていた仕事全部やるように早河に言われたんで」
「それは仕方ねえな。ああそうだ、陽和、こいつが幹部の命な」
突然名前を呼ばれて命さんの紹介をされて、一応「よろしくお願いします」とは言えたけどそれ以上は何を言ったらいいのかわからない。
「命、こいつが俺の恋人の陽和」
「はい、鳥居が朝から若の恋人は美人だって騒いでましたけど、本当ですね。」
「だろ」
美人なんて、そんなこと無いのに。
恥ずかしくて視線を下げてるとその間に命さんはハルに何やら報告をして部屋から出て行った。
それからハルと命さんの間でもう1人知らない名前が出ていたなぁ、と思って「ユキさんって誰?」とハルに聞いてみる。
「命は昔···つっても7年前くらいかな、その時に子供を拾ったんだよ。虐待されてて名前もなくてな。それから今もずっと一緒に暮らしてる。ユキは命の恋人だ」
「虐待されてたの···?」
「ああ、まあそれはユキだけじゃなくて命も同じなんだけどな。」
驚いた、命さんも虐待されていたなんて。
ていうかそもそも勝手に人の過去の話を聞いてしまったことは良かったんだろうかと不安になって、すぐに違う話題に変えようと「ユキさん、って綺麗な人?」と言ってみたけど、ハルの顔は見る見るうちに怖くなる。
「命が好きになったのか」
「え?ち、違う!!」
「命が好きになったから、恋人のユキがどれだけ綺麗で、自分にどれだけ勝算があるかって···」
「いい加減怒るよ!」
ハルの頰を軽く叩くと唇を尖らせて「ユキは本当に綺麗だよ」とふてぶてしく言う。
「そんなに綺麗なんだ···」
「ああ、写真あるけど見るか?」
「うん」
ハルが携帯を取り出して操作をしてから俺に画面を見せる。
「え、男?」
「あ?さっき言わなかったか?」
「聞いてないよ!」
絵本の中から飛び出してきた王子様みたいな、本当に綺麗な顔をしてる。こりゃ男でも惚れるよ。
「す、ごい、綺麗だね」
「ああ、だから命も変な虫がつかねえようにって色々苦労してる」
美男美女···じゃないな、なんていえばいいのかわからないけど、本当に2人とも美形なカップルだ、と思わず乾いた笑いが漏れた。
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