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第31話

「可愛いなぁ、あの焦った顔、見た〜?」 「見ましたよ、顔真っ赤でしたね」 ご飯を食べ終わって「風呂に入ってこい」と言ったハルの言葉に逆らうことなく渡された着替えを持って部屋を出るとすぐ側で鳥居さんと世那さんが話をしていた。 「あ、陽和くん、今から風呂ですか〜?」 「あ、は、い」 「若と入るんじゃ無いんだ〜」 「え、っと···ハルは、仕事がって···」 「ふぅん···世那、若のことよろしくね、俺陽和くんのお風呂に付き添い行くから〜」 有無を言わせず肩を抱かれてお風呂の方に連れて行かれる。世那さんに助けを求めようにも綺麗に笑って「いってらっしゃい」なんて言うもんだからそれも無理だった。 「さっきは可愛かったねぇ」 「あ、の、やめてください···恥ずかしいからっ」 「何で〜?組員達も可愛い可愛いって言ってたよ、そのあとも若とイチャイチャしてたし、本当お似合いだよねぇ」 少し、言葉に棘があるような気がする。 俺の考え過ぎかもしれないと「ハハハ···」と乾いた笑いを落とせば「あんまり若のああいう姿を外で見せちゃダメなんだよ」と少しトーンの低くなった声が鼓膜を震わせる。何故だか俺の体温も少し低くなった気がした。 「弱味を見せちゃダメなんだ」 「······っ、あ、の」 「君なんて、若の弱味以外の何者でも無いんだよ。あそこには俺たちの信頼してる奴らしかいなかったからいいけど、本当はあんな若の姿を俺たちの前ですら見せちゃいけないんだ。君は若を支えられるほどの器じゃないよ」 「···ごめん、なさい」 呼吸がだんだんと浅くなる。 俺がハルと肩を合わせて隣にいることがおかしいってことくらい知ってる、でも人からそういう事を言われるとショックが大きくて体がぐらっと揺れる。 「あれぇ、大丈夫です?」 「あ、の···、離してください···」 「でも足元ふらついてるから···ちゃんと風呂場まで連れて行くよ〜」 怖い、初めてこの人が怖いと思った。 手を振り払って自分で立とうとしたのにいつの間にか腰が抜けていたらしく壁に背中を預けながらズルズルと地面に座り込んでしまう。 「ほら、連れて行くよ」 「いい、いらないっ!」 惨めな気持ちになって目からポロポロと涙が落ちていく。唇を噛んで手の甲で涙を拭う、そうしてると「はぁ···」とため息を吐いた鳥居さんは突然足をあげて俺の顔の隣にガンッと音を立てて足を置く。 「ひっ!」 「泣いてんじゃねえよ···」 顔を近づけてきた鳥居さんは鋭い目で俺を睨んだ。

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