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第32話

「────おい、何やってんだ」 突然低い声が聞こえてきて、そして次の瞬間には鳥居さんが殴られ床に倒れていた。 「い、ってぇ···酷いですよ、早河さん···」 「どの口が言ってやがる。テメェ、若に言われてこんなことしてたのか?それともお前の勝手な判断か」 「······若にこんなこと頼まれるわけ無いでしょ」 確か、ここに来た時に一番に鳥居さんと話をしていた強面の人。早河さんは俺に「立てますか?」と手を貸してくれるけど今は動けない、馬鹿みたいに震えてまるで自分の体じゃ無いみたいだ。 「すみません、失礼します」 「っわ!」 早河さんに抱き上げられて、突然の浮遊感に思わず声が出た。 「若のところに連れて行きます。鳥居が失礼しました」 「···あの、お、俺が···悪いん、です···」 「例えそうだとしても鳥居は若のものに手を出したんです。」 「だっ、て···俺、がハルに似合わない、から···」 「貴方がそう思いたいならそれでいいですけど、俺はそうは思いませんよ」 ハルの部屋の前について早河さんに抱かれてる俺を見て世那さんが驚いたように「えっ」と声を出す。 「鳥居が勝手なことしやがったんだ。」 「若は今親父のところに···」 「とりあえず中に入れてくれ、震えが酷い」 「はいっ」 部屋の中に入るとソファーに座らされて、早河さんはすぐに部屋を出て行こうとする。 「あのっ」 「はい」 「···鳥居さんは、何も、悪く無いんですっ」 「······わかりました。」 それだけ言って出て行った早河さん、1人になった途端一気に恐怖が蘇ってきて体の震えは一層増し、涙が溢れていく。 呼吸が苦しくてできない、ソファーに倒れこんで必死に息をしようと空気を吸うのに何故か呼吸が落ち着かない。手足が痺れてそれを落ち着かせようと腕をグッと掴むけど治ることはなく、一層恐怖を増幅させた。 「ひっ···っ、ひ、ぐぅ···っ」 苦しい、苦しくてたまらない。 飲み込めない唾液が垂れて服を濡らし、頭痛がひどくてそれに伴って吐き気が襲ってくる。 ここで吐いちゃダメだと地面を這うように移動してゴミ箱に顔を突っ込んで溢れてくるものを吐き出した。 「──陽和···?」 そしてハルの声が聞こえたのと同時、俺の意識はプツッとまるで糸が切れたかのように落ちた。

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