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第35話
次の日の朝に目を覚ました陽和。
まだ眠っていた俺を起こして「あの、俺···吐いちゃった···」とゴミ箱を指差す。
「昨日片付けた。まだ寝てろ」
「ご、ごめんなさい···」
「謝ることじゃねえだろ。···なあ、陽和」
「はい」
「何か不安に思ってること、あるんだろ。話してくんねえか。」
無理に聞き出したいわけじゃないから、努めて優しく問いかける。途端ポロポロと目から大粒の涙を零しだした陽和に驚いて、どうしたらいいのかわからず、抱きしめるくらいしか案は思い浮かばなかった。
そうして腕の中に陽和を閉じ込める。
「···ずっとそうやって不安を抱えてたのに、気付けなくて悪かった」
「っ、違うっ、俺が何も、話さなかったから···」
「陽和、俺のこと見て」
首を振って嫌だと言う陽和。
髪がサワサワと顔に当たるから擽ったい。
「俺はお前のことが好きだ。だからそうやって辛くて泣いてる陽和を見るとさ、その原因を無くしてやりたいと思うんだ」
「···俺の、ためにそんなことしなくていいよ」
「お前のためにじゃねえとそんな面倒なことしてやれるかよ」
ゆっくりと顔を上げる陽和は涙で顔がぐちゃぐちゃだ。服の袖でポンポンと拭いてやると幾分かマシになった。
「だからな、陽和」
「う、ん」
「お前を今、苦しめてる原因を俺に教えてくれ」
「·········」
「もしそれが俺だっていうなら、流石に今はまだやることがあるから、お前から離れるくらいしかねえんだけどな」
そう笑いを含めて言えば「俺···」と小さな声で言葉を落とす。
「ハルに似合わない、から」
「似合わない?」
「うん。昨日の、ご飯の時も···皆の前であんなハルの姿は見せちゃダメなんだって···怒ってた、から」
「ああ、あれか」
陽和が恥ずかしがって俺に縋るように寄ってきたとき。
俺としては嬉しかったんだが、確かに組員から見ればどうしたらいいのかわからないだろうし、俺のそんな姿を見たいわけではないだろうし。
「ていうか、そんなこと誰に言われたんだよ」
「·········」
「鳥居か」
「鳥居さんが怒ったのは間違いじゃないよ。だって俺、それを言われて返す言葉もなかったもん。」
シュン、と小さくなった陽和は俺の腕をトントンと軽く叩き解いてくれと言う。それに従えば陽和の体は離れていって少し寂しい気持ちになる。
「やっぱり俺は、ハルの隣にいていい奴じゃないみたい」
儚い笑顔でそう言い切った陽和に、特に何も思ってなかったのにだんだんと怒りが湧いてきた。
昨日ああやって倒れちまったのに、ダメだって頭では思うのに体を制御できない。
起き上がって陽和の上に跨る。
「ハル!?」
「許さねえ」
「───ッ!!、痛っ!」
自分の思うがままに、陽和の首に噛み付いた。
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