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第56話
ゆっくり目を開けると既に隣にハルはいなくて、その代わり俺のいるベッドから見えないところで誰かと何かを話しているのが聞こえた。
「だから、それは自分で話せって」
「お願いですー!どうか!キッカケを!!」
「キッカケ何てなくたっていけるだろ。大体前はキッカケなんてなしにあんな事言えたのに何で今回は無理なんだよ」
「喧嘩前と喧嘩後の若干の空気の違い、この話辛さ!わかりませんか!」
「わかんねえよ」
どうやら話し相手は鳥居さんのようだ。
そういえば俺はまだ鳥居さんと話をできてない。裸のままだったから急いで服を着てガクガクとしてる足を奮い立たせて「あのー···」と言いながらハルたちの方に行く。
「ああ、おはよう」
「おはよう」
「···お、おはよう、ございます」
鳥居さんが気まずそうに視線をそらして俺から距離をとるから、一気に距離を詰めて「あの!」と言うと「はい!」とでかい返事が返ってきて驚いた。
「俺、あの、寝起きですみません!」
「え?あ、いえ···」
「俺、ちゃんと、ハルの···晴臣に似合うような人になるので!今は至らないところが多々あると思いますが、それでも、これから、えっと···これから色々、頑張るから···」
「ちょ、え、待って落ち着いて···」
「お願いします、認めてください!」
「ええ!」
頭を下げた俺に鳥居さんが慌てて「顔上げて!やめて!若に殺される!」と俺の肩をグイグイと押す。
「わかった!わかったから本当にお願い、顔上げて···」
消え入りそうな声でそう言われると上げるしかない。
顔を上げて鳥居さんを見ると少し涙目になっていて焦った。
「見てよあの若の顔、鬼みたい」
「誰が鬼だコラ」
「ひぃっ!」
ハルの顔が般若みたいに怖かったらしい。
今ハルの顔を見たけど、なるほど。とても怖い。
「さあて、お前らの間にはもう何もなくなったよな」
「俺は、何もないよ」
「俺もです」
「よしよし、じゃあとりあえず飯食いに行くぞ。あ、陽和はその前に風呂だ」
うん、と頷くとこっちに来たハルに「おはよう」ともう一度言われ鳥居さんがいるというのに唇にキスが落とされた。
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