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第59話

結局その日は龍樹くんと話をしたり、講義を受けたりしただけで特別楽しいこともなかったし、嫌なわけでもなかった。 迎えに来てくれたハルと命さんにお礼を言って浅羽組に帰るとハルが「じゃーん」と抑揚のない声で俺の前に何かを広げる。 「お菓子だー!」 「鳥居がくれたんだ、お前にってよ」 「本当!?じゃあ後でお礼言わなくちゃ」 俺の好きなお菓子があって「もーらい!」と一つ手に取り袋を開けて口の中に入れると甘いのが広がって自然と笑顔になる。 「ハルも食べなよ!美味しいよ!」 「ああ、じゃあ後でもらう」 ソファーに座ったハルの隣に腰掛けて少しだけハルにもたれると肩を抱き寄せられた。 「はぁ」 「どうしたの?」 「いや、どうもしてねえ。···そうだ、学校どうだった?」 「ああ、えっと···」 昨日の三人の今日の様子とそれから龍樹くんの話をするとハルは「よかったじゃん」と俺の頭を撫でてきた。 「その龍樹くんとやらはいい奴なんだろ?」 「うん、すごくいい人だよ。優しいし、雰囲気が穏やかだし」 ハルの方に顔を向けジーッと見つめる。 俺の頰に手を当てたハルはそのまま引き寄せるようにして俺にキスを落とす。 「お前が少しでも楽しいならよかった。」 そう言って笑うハルが少し寂しそうなのは気のせいじゃないと思う。ハルと手を繋いで「どうしたの」と聞けば「いや···」と言葉を濁すから、言いたくないことなのかもしれないと思って「ふぅん」と適当に返事をしてもっともっとハルに体重をかける。 「重い」 「だって重くしてるもん」 「何だよ、構って欲しいのか?」 「それはハルの方でしょう」 そう、笑いあって、ハルの目を見つめちゅ、っと触れるだけのキスをした。

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