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第69話
「黒沼です」
「は、はい!」
「失礼します」
命さんの声が聞こえて、ドアが開けられる。
ドキドキと心臓がなる。何故かやたらと緊張してしまう。
「は、初めまして···」
命さんが入ってきた後ろから綺麗な整った顔が部屋を覗いた。俺と目があうと小さく笑って「ユキです」と言う。
写真で見た通り、すごく綺麗だ。
「あ、陽和っていいます」
「陽和くん、よろしくね」
ユキくんがそっと差し出した綺麗な手に俺の貧相な手を出して握手を交わす。何を食べたらこんなに綺麗になるんだろう。
「ユキくんは何を食べてるんですか」
「え···?ご、ご飯、です」
「ご飯を食べたらこんなに綺麗になるんですか」
「み、命っ、陽和くんがっ」
ああ間違った、色々間違った。
とりあえず繋いだままだった手を離して「ごめんなさい」と謝るとユキくんは困ったように「謝らないで」と言う。なんて優しい子なんだ。
「すみませんが俺は仕事があるので、何かあったら言ってください。ユキ、迷惑かけるなよ」
「わかってるもん。お仕事、行ってらっしゃい」
ユキくんが命さんにそう言うと命さんは嬉しそうに笑って「ああ」と返事をして出て行った。
いやいや、待て違う。
命さんも命さんだけど、ユキくんもユキくんだ。
こんな出会って間もない2人を置いていく!?初っ端から変な質問をしてしまって俺はすでに気まずいのに。
「陽和くんは、ハルくんの恋人、なの···?」
「えっ!?」
「違うの···?」
綺麗な顔で首を傾げられるとこんなに破壊力があるんだ。ハル以外の男に興味なんて全くないけど、でもユキくんは何か違う、小動物のように可愛がりたいなんて思ってしまった。
「そ、そうだよ」
「ふふっ、やっぱり、だってね、キスマークついてる」
「え!?どこ!?」
「ここ」
そっと距離を縮めて俺の首筋に触れる。
嘘、全く気付かなかった。
「ハルくん、陽和くんのこと、大好きなんだね」
「···どうして?」
「だって、命がキスマークの意味教えてくれたよ、それを付けるのは自分の物だから誰にもあげないってことだって」
顔が熱くなる。
キスマークの意味は知ってたけど、改めて言われるとやっぱり恥ずかしい。
けれど、柔らかく笑うユキくんの鎖骨辺りにも噛まれた痕とキスマークが付いていた。
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