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第83話
「晴臣」
「あ?」
そろそろ部屋に戻ろうと腰をあげる。それと同時に名前を呼ばれて声の聞こえた方を見れば遼の姿があった。
「何だ、遼か。どうした」
「···お前、本当はいろいろ掴んでるんじゃねえのか?」
「何のことだ?」
内心少し焦ってるけど、悟られないように感情を殺してジッと遼を見る。
「情報屋から、もう幾つか情報をもらってんだろ?」
「あいつは忙しいから、腕は立つけど、そんなすぐに動いて情報を掴めるわけじゃない。···そもそも、何でそんなこと聞くんだ。何か不安なことでもあんのか」
「···そうか。いや、何でもない」
「ならいいけど」
何かに怯えている様子の遼は深く息を吐いて「悪い、ちょっと色々あったから疲れてるみたいだ」と言って力なく笑う。
「早く休め」
「ああ、ありがとう」
遼と一緒に部屋を出てそれぞれの部屋に行き、俺はすぐに風呂に入ってシャワーを浴び、ベッドに寝転がった。
「あー···疲れた」
特に何も話し合いは進まねえし、座っているだけだから疲れる。まだ時間は9時にもなってねえけど、寝ちまおうと目を閉じたところで携帯が鳴った。画面をみればカラスからの電話で、通話ボタンをタップした。
「はい」
「いやー!俺頑張ったよ!褒めてよぉ!!」
「うるせえ!!」
絶叫しやがるからあまりのうるささに怒鳴ってしまう。もう寝ようと思ってたんだ、そうなるのも仕方ない。
「反抗期なの?ママ悲しいわ···」
「ふざけてっと電話切るぞ」
「切ってもいいけど、情報要らないの?」
「···ちっ、要件を話せ」
ケラケラと笑うカラスは突然笑うのをやめて、歌うように「まーずーはっ!」と言った。
「陽和くんの大学に潜り込んでる敵がいることとー」
「はっ!?」
「いるんだよねぇ。もしかしたら本当、近い距離で。女か男かはわからないけど、これは確信してるよ、俺」
額に手を当てて溜息を吐く。
たまたま陽和と同じ大学に知り合いがいてそいつを使って陽和を狙ってるならまだわかるけど、これが長年の計画だったのだとしたら怖い。陽和は薬学部に通ってる、つまりは6年間も調べ上げられてたということになる。
「それと、多分近いうちに君宛に何かが届くと思うんだ。まあ、それが薬だってことはわかってるんだけどね?」
「薬···?」
「そいつは薬を使って商売したいみたいだね。でも浅羽組が統括してる同盟で薬は御法度。だから何とか商売できるように、薬の良さを君にわかってもらおうとしてるんじゃないかなぁ。金がいっぱい入るよって」
くだらない話に思わず舌を打つ。
カラスはケラケラと笑って「そこまではいけるんだけどね。決定的な証拠がないから、まだ犯人はこいつだって言えないんだ」と言った。
「まあでも、明日か明後日にはわかると思うよ。ちょっとずつ尻尾出してきてるから」
「お前が予想してる犯人はやっぱり俺の近くにいるのか」
「いるよ、目と鼻の先だ」
「···わかった」
それから間も無く電話を切って、腕で目元を隠しまた溜息を吐く。
犯人を捕まえた時にはどうやって話を聞き出そうか。考えるだけで楽しくて、加虐心を煽られる。
「···陽和に会いてぇ」
そう呟いて、そのまま、眠りに落ちた。
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