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第97話
「───え、っ」
パッと目を覚ました陽和が勢いよく起き上がる。俺を見て瞳を揺らし俺の腕を強く掴んだ。
「は、い···わかりました」
動揺してるのか手が震えてる。
そのまま電話を俺に渡してきて耳に当てると「おーいおーい、浅羽の晴臣くーん」と声が聞こえてくる。
「はい」
「陽和くんと話させてくれてありがとねー!じゃあ教えるけど犯人は木川だよ。」
「木川···」
「細かく言えば木川の若頭が動いてるよ」
はぁ、と溜息が出る。
それと共に陽和の俺の腕を掴む力が強くなった。
「金髪の長身って情報は何だ」
「木川の若頭が薬を売った相手じゃないかな」
「そうか···。助かった。ありがとう」
「うん、今度浅羽にお邪魔するねー!!」
「ああ」
それから少しだけどうでもいい話をして通話を切った。
陽和が不安そうな顔で俺を見てる、なんだ?とその目を見つめ返すと瞳がグラグラと揺れて涙を溢れさせた。
「ど、どうした···?」
カラスに何か言われたのだろう。確かにカラスと話をしたあの瞬間から陽和の態度が変わった。
けれどその内容を自分から話してくれないという事は、俺には聞かれたくないことなんだろうと、泣き出した陽和をどうにか落ち着かせようとすることしか出来ない。
「陽和」
「ハルは、俺の、隣にいるの···」
「いるよ。だから大丈夫」
陽和の言う言葉に肯定して、それを何度も繰り返しているうちにどうやら陽和は俺がいなくなるという事に不安を感じているんだと気付いた。
カラスは本当に、陽和に何を話したんだ。
陽和を抱きしめて頭をポンポンと撫でる。
「陽和、なあ、顔上げろよ」
「···ん、っ」
陽和の頬に触れてそういうとゆっくりと顔を上げて俺を見た陽和、くしゃっと表情が崩れて涙でぐちゃぐちゃになっている。
「カラスに言われたこと、教えてくれねえか?」
「···やだ」
「···なら、泣くんじゃねえよ」
そうして泣いて、そのくせに理由を話さないのなら、そういう姿を見せてはいけないと思う。
恋人に対してそんな事を言うのは酷いんじゃないか、とか、そういう気持ちは多少あるけれど、そういう事を言わない方こそ、恋人ではないと思う。
「ご、めん、なさい···」
「ほら、泣きやめ」
例えその理由俺が消えてしまうかもということだとしても。
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