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第102話

幹部室に行けばまだ早河しか来てはいなかった。 「おはようございます」という早河の声に返事をして「そういえばカラスがさ」と燈人にしたような説明をする。 早河はもともと少しアウトレイジな考えを持っているから、説明をするとすぐに「少し泳がせますか?」といつもより少し楽しそうにいう。 「俺はそのつもりだ、燈人とも話をしたし、反対されることもなかったからな」 「楽しみですね」 「ああ」 前に早河に渡していた今回の事には全く関係の無い資料を預かり部屋に帰る。 そして部屋に付くなりペラペラと資料に軽く目を通して「面倒くせぇ···」と小さく呟いた。 「若ー昼ご飯食べましょうよー!」 「んー···」 部屋に入ってきた鳥居が俺の目の前に立って「ね、ね?」と言い首を傾げる。 「まだ、あともう少し」 「さっきからそういいながらもう2時ですよー!お腹空かないんですか!?」 「···すいた」 「じゃあ食べましょう?」 資料を読んで、確認したことを示すサインを書く作業をずっと繰り返してる。さすがに肩も凝ったし腹も減った。鳥居に促されるまま部屋を出て1人で組の炊事場に行けば母さんがそこで何かを作っていて思わずその手元を覗き込んだ。 「あら、晴臣、お仕事は一段落ついたの?」 「ああ、これ何」 「桜餅よ。あなたが仕事ばかりしてるって聞いたから、甘いものでも作ろうかと思ってね」 「食いたい」 「だめよ、ちゃんと完成してから」 手を伸ばすと桜餅に触れる前に母さんの手に包まれる。食いたかったのに···態とらしくそれを顔に出すとくすくす笑って「お昼ご飯まだ食べてないんでしょう?何か作るわ」 と桜餅は1度隅にはけて、また新しく何かを作り出す。 「···なあ母さん」 「なあに?」 「俺、陽和に酷いことしちまってんのかな」 「あら、どうしたの突然」 「今朝の陽和の話は親父から聞いてるだろ?」 「突然居なくなっちゃった、ってやつよね」 「ああ」 今朝のうちにあったことを母さんに話すと「それは困ったわねぇ」とくすくす笑う。本当に困ってんのか?と疑いたくなるくらい綺麗に。 「貴方も陽和君も、お互いの本当の気持ちが伝わってないのよ」 「···俺は伝えることが苦手だ」 「でも伝えないとすれ違いが起きるでしょう?今のあなた達みたいにね」 最もな答えに何も返せなくて黙る俺を他所に母さんは言葉を続けた。 「いいじゃない、言葉をうまく伝えられなくても。陽和くんなら下手な言葉もきっと上手く聞き取ってくれるわ」 「そうかな」 「そうよ、あなたの好きになった人でしょう?なら大丈夫よ」 その大丈夫はどこから出てきたのかはわからないけれど、母さんが言うならきっと間違いはないだろう。 「じゃあ、ちゃんと話してみる」 「ええ、そうしなさい。はい!ご飯できたわよ!」 母さんが作ってくれたご飯を"陽和に何て伝えようかな"と考えながら口に運んだ。

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