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第104話
「浅羽組?何だそれ」
裕也が無邪気にそう聞いている。
「極道だよ。そのハルって奴は浅羽組の若頭、浅羽組で2番目に権力のあるやつだ。知らないのか?」
「極道!?」
「東を統括してるのは確か浅羽だったろ?ここら辺で浅羽に牙向けた奴は殺される」
「ヒィィィっ!!待て待て!!じゃあ俺はこの間も今日もそんな人にタメ口で話をして······」
オロオロとする裕也を他所に俺は龍樹くんがどうしてそこまで知っているのだろうと不思議に思った。俺ですら浅羽組が東を統括してるなんて知らなかったから。
「な、何でそんなこと、知ってるの···?」
「だってあの人有名だろ───···俺らの世界では」
こそこそと俺の耳元でそう言った龍樹くん。
思わず立ち上がって龍樹くんから距離をとろうとする。けれどその前に腕を強く掴まれて引き寄せられた。
「離してっ!!」
「え、おい、ひよこどうした?」
「離せ!くそっ、裕也助けて!!」
「え、ええ?何?何が起きてんの?」
くそ、裕也は状況を理解していない。
いやそれは仕方の無いことなのに、腹立たしい。
「そんな人と知り合いだったことに驚いてるだけだよ。」
「ああ、なんだ、そっかぁー!大丈夫だろ、あの人優しそうだし」
尤もらしいことを言って馬鹿な裕也を納得させた龍樹くんは「じゃあ俺ら行くところあるから」と俺の腕を強く掴んだままラウンジから出ていこうとする。
「待っ───」
「でけぇ声出したら、殺すぞ」
「っ!」
非常階段に連れ込まれて「わかってるな?」と龍樹くんの低い声が恐怖を煽る。
「今すぐ殺されたくなかったら、大人しくいうことを聞け」
「っ、た、龍樹くんは、どこの組なんだよっ」
「大きく言えば木川組だが、そこからもまた分かれてるんだ。」
「俺を攫ってどうするの」
「さっきの浅羽の若頭の感じだとまだ何も掴めて無さそうだし、お前を攫っても何にもならねえと思うけど、バレた時のための人質だ。うちの組でお前を監禁する。浅羽が来たら···お前を盾にいろいろ交渉したいことがあるらしいしな」
「俺何かのために、ハルは来ないよ」
「嘘つくな。お前らが恋人同士だってことなんてもうとっくに知ってる」
舌打ちを零した俺の首にひやりとしたものが当たった。途端体は凍りついて動かなくなる。
「俺の前でならいい。遼さんの前でそんな態度をとってみろ、すぐに殺してやる」
小型のナイフ、きっとこいつはチャンスを伺っていたんだ。いつでも俺を浚えるようにしていた。じゃないとこんな都合よくナイフなんか出てくるわけがない。
「···また、迷惑かけちゃった」
どうやって現状を打破しよう···?怒られたくないなぁ。そんなことを考えながら龍樹くんに無理矢理連れられ、知らない大きな家に連れ込まれたのだった。
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