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第105話
「龍樹くんは元からあの大学にいたの?」
暗い部屋に連れ込まれて椅子に座らされた。
「ああ。でもそれより前から俺は木川の下についてた」
「何で?」
「あ?」
「何で大学に通ってるような人が極道なんてしてるの?」
それぞれの足を椅子の脚に括り付けられ、手もそれぞれ拘束され胸辺りを背もたれと一緒に縄でぐるぐる巻にされる。
「···俺の親が殺された」
「え···?」
「浅羽の若頭のせいだ」
「どうして」
「あいつが、助けてくれなかった。」
悔しそうに唇を噛んだ龍樹くんは身動きの取れない俺の頬を思い切り殴りつけた。
口の中に広がる血、殴られたことなんて高校生の頃以来ないから久しぶりの痛みに顔を歪める。
ジワジワと生理的に溢れてくる涙が頬を伝った。
「俺の親も、こうやって死んでいったんだろうな」
「···お、れに、関係ないでしょ、それ」
「ああ。でも、浅羽の若頭を苦しめるならこうするのが一番だろ?」
とばっちりもいいところだ。
腹が立つとか、そういうのより先に呆れが来て溜息をこぼす。そのタイミングで部屋に誰かがやって来て龍樹くんが姿勢を正す。
「龍樹」
「遼さん、お疲れ様です!」
「そいつが、ハルの恋人か」
「はい」
一見普通そうに見える男。でも何だか様子が変だ。
「おい、お前」
「············」
「返事をしろ」
「っ!」
その言葉と共にまた頬を殴られた。
「名前は」
「············」
「おい、話せるんだろ?何なら本当に話せなくしてやってもいいんだぞ」
「···白石」
「白石、なんだ」
「···陽和」
名前を言えば満足そうに頷いて「まあ、お前の名前は知ってたけどな」と言った。こいつすごく鬱陶しいやつだな。
「俺の聞いたことには正直に答えろ」
「···そうしなかったら?」
「嘘つきは舌を引っこ抜かれるんだ」
「最悪」
「だから本当のことを言えよ」
「···わかった」
本当を折り合わせた嘘を言えばいいか。
少し怖いけれどまだ知り合いがそこにいることで落ち着いていられる。
ハルは自分で起こしたことに責任をもてって言ってたし、どうやってここを抜け出そうかなって考えるけれど思いつくのは一つしかない。けれどそれをしてしまうとハルを裏切ることになってしまうし、困ったなぁ。
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