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第106話

「ねえ、あんたの名前は確か···遼だったっけ···?」 「ああ」 この人に好かれたらきっと拘束も解かれるし、そうしたら隙をみて逃げることが出来ると思った。 「あの、これ、手が痛いから···もうちょっと緩めてほしい···」 「···ダメだ、逃げるだろ」 「だって痛いんだもん」 ハルに甘えたい時にだけ出す声を使ってそう言うと少し溜息を吐いて龍樹くんに「緩めてやれ」と命令する。 「ありがとう」 「···お前、今のの状況わかってねえのか?」 「わかってるよ。でもここで焦ってもどうにもできない」 そういった俺を「さすがハルの恋人なだけあるな。」と褒めてくれる木川。 「女みてぇな顔してるくせによ」 「それ、ただの悪口」 「うるせえ。ところで、浅羽が使ってる情報屋ってのは誰だ」 「情報屋…···?知らない」 さっきまでと同じように淡々と言葉を返すと嘘を信じきった木川は「次だ」と違う質問を寄越してくる。 「ハルは俺達のことを感づいてると思うか?」 「さあ、さすがにハルの心の中はわからないよ」 「本当か?」 さっきは簡単に信じてくれた言葉、今度は怪しげに目を細めるだけだ。 「本当」 「そうか。わかった。···おい龍樹、いろいろ思うことがあると思うが、もうこいつを傷つけるなよ」 さっき俺のこと殴ったくせに、どの口が言うんだ。そんなことを思いながらももう殴られないならいいや。と体から力を抜く。 「あんたはどっかに行くの」 「仕事がある」 「ハルのこと聞きたいならここにいればいいのに」 「いたら教えてくれるのかよ」 「教えないけど、いないよりはマシじゃないかなって」 バカにしたように口角を上げるとギロっと睨まれて、拳を握り振り上げた木川。 けれどさっき龍樹くんに傷をつけるなと言った手前そのまま振り下ろされることは無かった。

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