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第108話

「痛いよ」 「··っ、くそっ、薬がねぇ···痛ぇっ!」 「薬···?」 ギラっとした目が俺を見た。さっきとは全く違う目だ、少し怖いと思った。頭痛がするのか床に蹲って頭を抱えている。 「ねえ、大丈夫?」 「············」 「薬欲しいなら取りに行きなよ」 「···お前、薬のこと、わかってんのか···?」 「使っちゃいけないやつでしょ」 あんたの反応見てたらわかるよ。と続けて言えば木川は小さく苦笑を零して深くため息をついた。 「別に、俺が始めたことじゃ、ねえんだ···」 「うん」 「初めは俺の、部下が···それがバレたら、処分される。だからもう、組ぐるみで始めたことにすれば、あいつ一人が処分、されることはねえだろ···って」 「その部下さんにやめさせる事はしなかったの···?」 「あいつが薬を始めた理由はわかってる、だからできなかった」 苦しそうに息を荒らげながらも話してくれる木川。 「ねえ、これ取って、俺、あんたの味方になれるかもしれないから」 「味方···?ハルに殺されないようにしてくれるってか?」 「うん、だから取ってくれない?」 誰だって死ぬ事は嫌だと思う。 言い聞かせるようにゆっくり言葉を紡ぐと渋々といった感じで、拘束をといてくれた。 「取り敢えず、それ治さないとね」 「治す、って···」 木川は薬が欲しいけれど、それが本心ではないということがわかった。床に膝をついて立つ気力が今は全くないようなそんな木川をそっと抱きしめてよしよし、と震えている背中を撫でる。 「さっきは我慢できて偉かったね」 「お前、何言って」 「ハルにはちゃんと話して納得してもらう。だからまずはあんたが薬から手を引いて」 木川の体からスッと力が抜けた。 顔を覗き込めば「ちゃんと我慢する」と小さく呟いて俺の腕を掴んだ。 「それでも、龍樹はわかんねえぞ」 「龍樹くん?···ああ、親のこと」 「俺があれは違うと何度言っても聞く耳を持ちやしなかったからな」 「まあ、それも何とかして見せるよ」 今回のこの出来事、意外と事が大きくならなさそうでよかった。なんて内心ではそう思っていた。

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