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第111話
やる事を得た俺は適当に書類に目を通して、それぞれが言っていた通りに仕事を進める。
別に、全く心配してないわけじゃない。
でも陽和は実は強いんだってことを俺は知っている。
「帰ってくんのは遅いかも知んねえけど」
どうせあいつは俺の力を借りようとすることもなく解決してしまうんだろう。
「煙草···」
そういえば、部屋に置いたまま、持ってくるのを忘れた。
舌打ちを零して書類を持ち立ち上がる。もうこの仕事も部屋でやろう。
部屋に帰れば鳥居はもう居なくて、煙草を吸いながら仕事を進め、日付が変わる頃には仕事は終わり、そして、そのタイミングをまるで見計らった様に携帯が鳴った。
「···陽和」
通話ボタンを押せば遠慮がちな陽和の「ハル···?」と俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「ああ」
「お願いがあるの」
「へえ。俺の言う事も聞かなかったくせにか」
「それは、ごめんなさい」
別に、そんなに怒っていたわけでもないから「で?お願いって何だ」と問いかける。
「あの···怒らない?」
「ああ」
「本当?」
「俺が嘘ついた事ねえだろ」
「う、ん」
一つ、息を吐いた陽和は「あの!」と勢いよく話し出した。
「木川遼は、組員を庇うために薬に手を出したの」
「···で?」
「だから、そんなに怒らないであげて欲しいの」
「無理だな」
陽和が言いたいことはわかる。
俺だって人の上に立つ、そんな地位でなければ許してやったかもしれない。けど、残念ながら俺は浅羽組若頭だから、許してなんてやれない。
「お願い」
「木川もわかってる筈だ。だから会議の時、焦って俺の後をつけてきたり、情報屋のことについて詳しく聞いてきたんだろ。今更それを無かったことには出来ない」
「ハルっ」
「下らねえ。そんなこと、俺が許すとでも思ったのかよ。」
陽和が返事をしなくなる。
別に俺は怒っているわけではない、けれど口調が厳しくなってしまうのは仕方のないことだと思う。
「俺···」
「あ?」
「俺、帰らないから!!」
「······はあ?」
「ハルのバカ!!」
そうして電話が切れた。
「···ちっ」
こんなこと、思っちゃいけないってわかってるけど、くそめんどくせぇ。
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