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第119話

その日は本当、何もしないでただ寝て過ごした。 それは親父がわざわざ俺の部屋に来て「寝てろ」と監視していたから。 「なあ親父」 「何だ」 「寝てるから、部屋に帰ってくれていいよ」 「ダメだ。お前はそう言って仕事をしだすからな」 「しないって。今日は本当に···もう、疲れた」 腕で目元を覆って視界を暗くする。 今は何も、目的も目標もない。 ひと段落ついた騒動、肩の荷が一つ降りて安心した矢先のこれ。ごろりと寝返りをうった。 「お前、しばらく休め」 「あ?」 「最近、ずっと働き詰めだったし、今朝のことも聞いてる。お前には今、何も考えない時間が必要だ」 「仕事してたら何も考えなくて済むし、そんな時間、わざわざ作らなくてもいい」 「ダメだ。一度ここから離れろ」 親父の言葉が一つ一つ、重たくて本気なんだと感じる。 「昴の所に行ってこい」 昴とは親父の弟で、俺の叔父の事。 ここからは遠く離れたところに昴さんの家があって、親父はどうしても俺をこの場所から離したいらしい。 「わかったよ」 「昴にはもう話してある。どっちにしろお前は向こうに1度行かせる予定だったしな」 「ホームシックで泣くかも」 「もう24だろ。何言ってんだ」 親父はくすくす笑って俺のすぐ側にやってきた。 目元を覆っていた腕を取られ、額に掌を当てられる。 「まだ熱いな」 「ん」 「体調が治ったら、行ってこい」 「うん」 親父の声は温かかった。

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