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第124話
教授の声が遠くに聞こえる。
全く集中出来ない。そんな俺を横目に龍樹君は熱心に勉強していて、少し腹が立った。
講義を終えて、帰ろうとする俺に「まだ授業がある」と言う龍樹君。待ってろって言うの?
「俺はお前を送れないから、若に電話しろ」
「番号知らないし」
「ちっ、ちょっと待て」
龍樹君が遼に連絡を入れるのをぼーっと眺める。
今頃、ハルは何をしてるんだろう。
ずっと、一緒にいたからふとした時にまずそれを考えてしまう。
「若、すぐ来るから待ってろ」
「面倒くさい」
ラウンジの席に座り、携帯をいじる。
このままハルに連絡したい、ハルの声が聞きたい。
でもきっと今それをすれば、ただの迷惑になってしまうんだろう。それが悲しくて涙が溢れてくるのを唇を噛んで我慢する。
「ここにいろよ。若にはお前がここにいることを伝えてるから」
「···わかったよ」
机に顔を伏せて、情けない顔を隠した。
誰にもこんな顔見られたくない。
龍樹君はその後すぐに授業に行って、俺は一人になった。
ハルと別れてから、はじめて訪れた一人の時間。
ずっと一人でも大丈夫だと思っていたけれど、ああだめだ、すごく寂しい。
「陽和」
少ししてやってきた遼は俺の肩をポンポンと叩いて「帰るぞ」と言う。
「うん」
「泣いてたのか?」
「泣いてないよ」
早く、この生活に終止符を打ちたい。
この、ハルがいないと寂しくなるような、そんなに生活に。
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