124 / 211

第124話

教授の声が遠くに聞こえる。 全く集中出来ない。そんな俺を横目に龍樹君は熱心に勉強していて、少し腹が立った。 講義を終えて、帰ろうとする俺に「まだ授業がある」と言う龍樹君。待ってろって言うの? 「俺はお前を送れないから、若に電話しろ」 「番号知らないし」 「ちっ、ちょっと待て」 龍樹君が遼に連絡を入れるのをぼーっと眺める。 今頃、ハルは何をしてるんだろう。 ずっと、一緒にいたからふとした時にまずそれを考えてしまう。 「若、すぐ来るから待ってろ」 「面倒くさい」 ラウンジの席に座り、携帯をいじる。 このままハルに連絡したい、ハルの声が聞きたい。 でもきっと今それをすれば、ただの迷惑になってしまうんだろう。それが悲しくて涙が溢れてくるのを唇を噛んで我慢する。 「ここにいろよ。若にはお前がここにいることを伝えてるから」 「···わかったよ」 机に顔を伏せて、情けない顔を隠した。 誰にもこんな顔見られたくない。 龍樹君はその後すぐに授業に行って、俺は一人になった。 ハルと別れてから、はじめて訪れた一人の時間。 ずっと一人でも大丈夫だと思っていたけれど、ああだめだ、すごく寂しい。 「陽和」 少ししてやってきた遼は俺の肩をポンポンと叩いて「帰るぞ」と言う。 「うん」 「泣いてたのか?」 「泣いてないよ」 早く、この生活に終止符を打ちたい。 この、ハルがいないと寂しくなるような、そんなに生活に。

ともだちにシェアしよう!