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第125話
***
ある日、木川組の何人かが浅羽組に捕まったらしい。
遼は悔しそうにしていたけれど「仕方ない」と項垂れていた。
そんな遼を励ますこともしない俺は、冷たいやつなのかもしれない。
「俺、本当そろそろ帰るね」
「···無理するなよ」
「うん」
「何かあったら連絡すること」
「はい」
遼にはお世話になった。
それに、龍樹君にも。
龍樹君は今は仕事に行ってるらしくてここには居ない。
昨日のうちに挨拶はしたし、今日はもういいだろうとそのまま建物を出て、家に向かう。
「あ···」
アパートの下に見慣れた赤髪の人が立っていた。
俺と目が合うとヒラヒラと手を振ってくるから、1度お辞儀をして近付く。
「ど、どうしたんですか、鳥居さん」
「話があってねぇ。」
「···ハルのことなら、もう知らないですよ」
「そう。若ね、今行方不明なんだよ」
「え···」
鳥居さんの言葉に心臓がうるさく音を立てる。
「いや、親父は場所を知ってるから、行方不明ではないね。···まあ、とりあえず、親父と姐さん以外、音信不通なの」
「···だから、何ですか」
「陽和くんと別れた後、若、倒れたんだよね。最近、本当に忙しかったから、疲労だって。トラに怒られたみたいだよ」
「それを言うために、来たんですか?悪いけど、俺にはもう関係ないから」
鳥居さんの横を通り過ぎて、アパートの階段を登ろうとすると「若ってね」と鳥居さんが言葉を続ける。思わず足を止めてそれを聞いた。
「若って、昔から1人で我慢するんだ。嫌な事も、大変な事も、怖かったり、悲しかったり、そんな様子を俺たちの前では見せない。」
「··················」
「それは若頭っていう立場に居るから。上に立つ人が揺らげば下につく俺達に不安が広がるからって。だから高校を卒業したと同時に、感情を殺す事を習慣づけたり、自分にも他人にも厳しくなった。」
「···だから、俺には関係───」
「関係無いって言える君は、本当に残酷な人だね」
鳥居さんが、俺の目を見て冷たい声で言った。
前に俺が鳥居さんと言い合いになった時よりも、もっともっと怖い。
「若が何の為にそうやってけじめをつけているのか、わかる?」
「···············」
「君の前では、仕事の嫌なことを見せずに、素で居たでしょう?···そうやって、自分自身を使い分けてるんだよ。君は知らないと思うけど、若はいつも君だけは危険な目に遭わせないように手を回してたよ。」
「················」
「そんな若の気持ちを踏み躙って、君は今、平然と暮らしているんだ。だから···疲れきって、誰とも話したくなくて、俺たちに何も言わないで消えちゃう若の気持ちも、俺は納得できるよ」
そんな言葉が胸を刺した。
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