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第131話

ハルは目を覚まさない。 3日目までは大丈夫って思っていたけど、5日目には早く起きないとまずいんじゃないかとか、そんな不安が頭に過ぎる。 「ハル、おはよう」 朝、病室に来た時はちゃんと挨拶をして、それから他愛もない話をする。 学校があって、ずっとつきっきりは無理だから、たまに病室を抜け出して、でもすぐに帰ってくる。 初めはつけていた酸素マスクも取れた。 その唇にキスしたいけど、俺にはそんな資格がないと思う度に沈んでしまう。 「ハル、今日すごくいいお天気だよ」 ハルの頬を撫でて、早く目を覚ましてと祈り続ける。 その時、突然今まで規則正しい音を出していた機械がうるさく鳴り出した。 「えっ、ハル?ハルっ!」 ナースコールを押してお医者さんが来るのを待つけど、その時間がやけに長く感じる。 お医者さんがやってきて、一度俺を外に出す。 どうしたらいいのかもわからずに廊下で座り込んだ。 そんな時、鳥居さんがやってきた。 俺の姿を見てただ事ではないと思ったみたいで、すぐどこかに電話をかけている。 多分、ハルのお父さん。 「陽和くん、大丈夫だよ」 「だ、いじょうぶじゃないっ、ハルがっ」 「うん。若は大丈夫、親父が言ってたでしょ。起きるよって」 「···うん」 「だから大丈夫」 だから、の意味がわからない。 震える手を鳥居さんに包まれる。 「ほら、立って」 鳥居さんにそっと立たされる。 しばらくてお医者さんが出てきて、交代で俺達が中に入った。 「ハル」 また、酸素マスクがついてる。 目を覚ますのは、まだまだなのかもしれない。 「これ、陽和くんに。」 「え···」 「いつも若のこと見ていてくれてるから、親父が」 鳥居さんに渡されたものの中には美味しそうなパイが入ってあった。 「甘いの食べて休憩しろってね」 「あ、ありがとう···ございます」 それを鳥居さんと一緒に食べて、ハルに「美味しいから、食べたいなら早く起きてくださいよぉ」と言う鳥居さんにクスクスと笑みが漏れた。

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