144 / 211

第144話

「夕くんは好きな人いないの?」 「好きな人かぁ」 ドーナツを食べた鳥居さんが「んー」と考えて出した答えは 「多分、居るんだけど···でも、俺って恋愛の好きって言う気持ちがわかんないからさ、これがそうなのかどうかはわからないんだよね」 「そうなの···?」 「うーん。やっぱり、ほら、友達が居なかったから」 ケラケラと笑い飛ばすようにそう言った鳥居さん。 友達が居なかった?どうしてだろう。こんなに素敵な人なのに。 「俺はね、昔、ずっと喧嘩してたんだよ」 そんな俺の気持ちがわかったのか、鳥居さんが俺の顔を見て優しい声で言う。 「だから、周りを怖がらせてね、誰も近づいてこなかったし、わざわざ俺から近づくこともなかった」 「寂しくなかったんですか···?」 「その時にはもう命さんも早河さんも、若もいたし。まあ、だから、寂しくはなかったかな」 俺ならきっと寂しい。けれど鳥居さんは何でもないっていう風に笑うから、そうなんだ。と頷いてみせた。 「まあ、本当に誰かを好きになったなら、こんな冷静に好きな人の話なんて出来ないと思うよ、俺」 「ねえ夕くん!もし、そんな人に出会えたら、教えてよ」 「うん。ユキくんと、若と、それから···陽和くんにも話すよ」 俺に話をしてくれるとは思ってなかったから驚いて思わず「えっ」と声が漏れた。 「教えるよ。だって、友達だもん」 そう言って笑った鳥居さんの表情はすごく優しかった。

ともだちにシェアしよう!