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第156話

その夜はなかなか眠れなかった。 朝、陽和を学校まで車で送った後、電話はやめて直接カラスのところに行くことにした。 車を運転する早河は早々に何かを感じ取っていたらしく、「この事、陽和さんには秘密ですよね?」と聞いてきた。 「陽和だけじゃない、誰にも言うな」 「わかりました」 カラスのいる所はなかなか古いBARの中を通った、その奥の建物の地下。先に早河を帰らせて、その道を通りカラスのいる場所まで行くと「おはよぉ」と笑顔で迎えられる。 「昨日は悪かったな。」 「いいよ。陽和くんに聞かれたらまずいしね」 座って、とソファーを指さしたカラス。 遠慮なくそこに座って「で、何かわかったのか?」と聞けば困ったように笑う。 「わかったよ。犯人の事も、陽和くんの事も」 「犯人は」 「陽和くんと中野くんの言ってることは正しい。その裕也くんって子が君を刺した」 「理由は」 「あの子、母子家庭なんだ。お父さんが小さい時に死んでる」 「···············」 「···昔、抗争に巻き込まれたらしい。ただの一般人だったんだ。ただその場にいただけで巻き込まれて、死んだ。その抗争は浅羽が指揮を執ってた。浅羽を恨んで、そばに居た若頭である君を殺ろうとするのは納得できる」 成る程な。と頷く。 理由が理由だ。俺を刺したことをあいつ一人のせいにすることなんてできない。それはまた、どうにかするとして、だ。 「陽和の事は」 「陽和くんってやっぱり、ちょっと普通の考え方をしていないよね」 「···············」 「心当たりあるのかなぁ?その顔。」 「···無いといえば、嘘になる」 「ふふっ、あのねぇ、あの子、小さい時から異様に頭良かったみたいだよ。」 それがどう関係するのだろうか。 ニヤニヤとしてるカラスの表情が俺を焦らせる。 「彼にはお兄さんがいた。でもね、陽和くんより劣ってたんだ。頭も、可愛さでいうと容姿もね。」 「···で?」 「陽和くんの両親は、そのお兄さんに見向きもしなくてね、容姿も頭脳も素晴らしい陽和くんにゾッコンだったんだよ。つまり、ネグレクト」 「それは、陽和は悪くないだろ」 「いやいや、関係あるんだよ。だって、陽和くんさえいなければ、そのお兄さんは愛されてたんだから」 カラスの物言いにイラッとする。 まるで陽和がいなければよかったとでも言いたげで、睨みつけると「まあ、怒らないで」と言う。 「陽和くんっていう存在が、お兄さんを追い詰めた。そして陽和くんは無意識のうちに、両親のそういった部分を見て、学んでる。実際彼は優しいように見えてすごく冷たい人だ」 「で?それが全部陽和のせいだってか?」 「うん。だってね、陽和くんのお兄さんは辛かったみたいだからね、自分の家族を恨んでるよ。今は大きな力をつけたんだ。近い内に復讐にやって来てもおかしくない」 「…陽和がその兄貴のことを話さないのは何でだ」 「さあ?話したくないのか、単に存在を忘れているか。小さい時の記憶だからね、わかんないけど、もし後者なら、お兄さんは本当に報われないよ。流石に同情する」 そう言いながらもゲラゲラ笑うカラス。 本当にそう思っているのか?疑わしいけれど、こいつの本心を知ったところできっと理解なんてできないだろうから知らなくてもいい。 「ねえねえ、1日でここまで調べた俺に御褒美は?」 「···何が欲しい」 「何でもくれる?」 「さあ。内容によるな」 「じゃあさ···一回だけでいいからさ、セックスしない?」 カラスがさっと俺の右隣に来る。 太股を触られてゾワッとした。 「もし、してくれたら、これからも協力するよ」 「···しなかったら?」 「金輪際、お仕事お断り!」 こいつは基本、金では動かない。 それにこいつの存在も極一部の奴等しか知らない。 口も硬いし、俺達の情報を他に漏らすこともしない。 つまり、こいつの存在は俺にとってはメリットしかない。 今、こいつに離れられたら···そう考えると首を横に振ることが出来なかった。 「本当にそれでいいんだな」 「いいよ。そうしたら、俺はもうずっとハルの言う事聞いてあげる。君専属の情報屋になってあげてもいいくらいだよ」 「優しくは出来ない」 「じゃあ、せめて、痛くはしないで」 カラスが俺の首に腕を回し抱きついてきた。 これだけ。たった1回だけ。それだけでこいつが手に入るのなら安いもんだ。そう思って、そっとカラスの背中に腕を回した。

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