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第160話

陽和にはああ言ったけれど、なかなか会わせることは難しくて、次の日から至る所に電話をして、坂西会の話題を出せば嫌そうにする。 「あー···くそ···」 苛立つ俺の前には琴音がいて、煙草を吸って俺と同じように「あー···」と唸っていた。 「ていうか、何でお前がいるんだよ」 「久しぶりに会うのに何なんその言い方ー!」 少しも変わらない琴音、いや、前に会った時より身長が伸びた気がする。 「いや、あのさ?お願いがあってさ」 「···何だ」 「明日、大和にお休みくれへん?」 「何処か行くのか?」 「ううん。最近ずっと働き詰めで、あの人家でも寝てないねん。別にハルに文句言うてるわけちゃうくてな!あの人がただ単に仕事が好きなだけやねんけど、ちょっと見てられへんねん」 「わかった、親父に伝えておく」 そう言えば最近早河は毎日のようにここにいる気がする。 家でも眠れていない状態で仕事をさせてもミスが出るだけだ。返事をすれば嬉しそうに笑って煙草の火を消し、俺に飛びついてきた。 「あ、そういえば、前刺されてんて?大丈夫?」 「飛びついてきてから言うことかよ」 「ほんまやな!痛いん?ここら辺?押していい?」 「もう痛くねえから」 もし、痛いと言ったとして、押していい?って何だ。 ケラケラ笑って背中をバシバシ叩いてくる琴音に「何だよお前、それだけなら帰れよ」とドアを指さす。 「はいはい、帰りますよぉだ。···ああ、そうや、ハル」 「あ?」 「お前もちゃんと休まなあかんで。眉間に皺ずっと寄ってるし、そんな顔してたら怖くて近づかれへんわ」 「今は休みたくても休んでらんねえの」 「あらあら。それなら陽和くんに癒してもらい。」 「···············」 「え、何、喧嘩でもしたん?」 楽しそうに笑う琴音にイラッとしながら「喧嘩じゃねえ」と呟くようにいう。 「じゃあ···なんか後ろめたいことしたとか?」 「まあ、それもあるけど、今、俺のやってることが陽和にすごく関わってる事だから···」 「後ろめたいことしたん!?何それー!もしかして他の奴とセックスとか?いやでもハルがそんなことするわけ──···」 「した」 「···したんかい」 琴音の声が軽蔑を含んだ色になる。 「それも仕事?」 「ああ。」 「陽和くんは知ってんの?」 「知ってるわけねえだろ」 自虐気味に笑ってデスクに拳を下ろし、大きな音を立てた。 「ハルってさぁ、器用に見えて不器用よなぁ。」 「うるせえよ」 「で?どうするつもりなん?陽和くんにはずっと黙ってんの?」 「そのつもりだ」 「ふぅん。まあもう、遅いけどな」 琴音がドアをじっと見てる。 「え···」と声を漏らしながらそっちの方に顔を向ければ陽和が立っていた。 「ほんじゃ、俺帰るから!」 「テメェ琴音!!」 逃げるように出て行った琴音。 どうしたらいいのかわからずに陽和の足元に視線をやりながら「おかえり」と取り敢えず言ってみた。

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